104 最後の微笑み
ナシェエルを視認したアザゼルたちは衝撃波を放った。渦を巻いた閃光にかき消される衝撃波。
「メネド」
輝良の発した思念波に気付いたナシェエルが、上空に佇む輝良に視線を送る。
「もう終わりだ」
ナシェエルは呟いた。
「お前はいつから裏切者になってしまったんだ。ルナをこんなことのために使って」
「最初からさ。ただ君と一緒に仕事をしていた時だけ、ほんの一時、本来の記憶を失ってしまっていただけだ。今の私が本当の私だ」
公寿郎らの放つ無数の衝撃波がナシェエルを襲う。
周囲に渦巻く青白い閃光が、のたうつ大蛇のように衝撃波を飲み込む。
衝撃波を放ちながら、ミカエルの奇襲を警戒する面々だったが、ミカエルの気配を感じることはなかった。
「主は去った。私に存在意義はない。せめてもの腹いせに地球を滅ぼして痛み分けにするとしよう」
「去った? 腹いせ? 何を言っているんだ?!」
ナシェエルを睨みつける輝良。
「もう少しだ。もう少しであの星の灯が消える。私は一体何に何のために仕えてきたのか。いっそ私も記憶を消して、人間になってしまった方が楽になれるのか」
「わけのわからないこと言ってないで、術の発動を止めてくれ!」
衝撃波を連打しながら叫ぶ輝良。
その声は届いていなかった。その場にいるのが自分一人であるかのように、宙に向かって呟き続けるナシェエル。
「何故、何故ですか。ミカエル様、そんなにもか弱い御心をお持ちだとは。信じた私は一体何だったというのでしょう」
眩い光が辺りを満たし視界が遮られる。眩しさに顔をそむける輝良達。次の瞬間、巨大な光の柱がナシェエルを直撃していた。
バトルシップ、クロノスがこちらへ向かってくる。渦巻く青白い閃光が、陽炎のように弱々しくなっていく。半身が潰れたナシェエルは、かろうじて残った左手を地面につき何とか体勢を保っていた。
「手遅れだ。終わりがもうすぐそこまで来ている」
「一体お前は何と戦っているんだ」
潤んだだ瞳で問いかける輝良。
「私はただ、ミカエル様の命に忠実でありたかっただけ。主としての威厳を備え、無造作にこともなげに、人間を滅ぼす昔のミカエル様に戻ってほしかった。せめて以前の主のように、何のためらいもなく人間を滅ぼす事こそが家臣である私の最後の忠義。我こそはエル家一族の当主、ミカエル様が最上位家臣、ナシェエル」
§§§
「自動的に惑星規模の破壊作用を発動させる、古代の偉人が開発した魔法陣の修得は叶いませんでした。ミカエル様が以前、発動されたものです。しかし、重力魔法と素粒子魔法を組み合わせることにより、古代魔法陣がもたらす破壊と、同規模のものを引き起こすことができます」
「ほう。さすがであるな」
薄れゆく意識の中で、最後に見た主の微笑みが何度もナシェエルの脳裏を駆け巡っていた。
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