102 意識の決壊

「何故、実行しないんです? やりましょうよ。というか私がやると言っているのです。いったいどうしたんですか。何故止めるのです?」


「我は単なる恐怖の虜だ。そんなことはとうの昔に分かっていた。しかし、自分自身を知ることが、自分の醜さを認めることが怖かった。ただ自分の罪の重さから逃げたかっただけだ。そのために虐殺を正当化した」


「何を言っているのです。ミカエル様。私にはあなたの言っていることがわかりません。いったいどうしたっていうんです。何が起きたのですか」


「もういい。終わらせたいのだ。楽になりたい。この恐怖と罪悪感から解放されたい」


「自らの記憶を消し、人間になるのですか」


「そうだ。それの何が悪い」


「ならば私が引導を渡してあげましょう」


「頼む」


 ナシェエルの右腕がミカエルの胸を貫いた。

 ミカエルは笑っていた。緩んだ口元から溢れ出る一筋の血。

 ナシェエルの頬を伝う涙。


 主はもういない。どこかへふわふわと漂って行った。どこかへと言って、地球以外に行く場所などあろうはずもないが。

 止める者もいない。やるべきことはわかっていた。引導を渡すべき者がもう一人いる。


 地球だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る