97 サンブレッタホテル上空

 旋回する軍用ヘリを見下ろす、アザゼル一行。


 サンブレッタホテルを中心とする半径五キロメートルに結界を張り、結界内に時間静止魔法をかけるアザゼル。その後、夢魔法によって固有空間にジェイマス、ナトリア、グスタフの意識を召喚した。


「お久しぶりです」

 突然、見知らぬ空間に拉致された三人は気が動転して、アザゼルの言葉など耳に入っていなかった。

 白亜の空間に佇む三人。その三人を取り囲むアザゼルと公寿郎達。

 三人は何が起きているのか把握できず、ただ狼狽えるばかりだった。

「ナシェエル様の御仲間の方々ですか?」

 ジェイマスがアザゼルに問いかけた。

 アザゼルは首を振った。


「あなた方の望みは何ですか」

 ジェイマスはアザゼルに尋ねた。

 問いには答えず三人に歩み寄ったアザゼルは、手の平を三人に向かってかざした。アザゼルの手から放たれた光に包まれ、強烈な恍惚感に意識を奪われる三人。


 しばらくすると三人はナシェエルから、かけられた記憶改竄魔術の影響から解放され本来の記憶を取り戻した。

「私たちに協力してください。あなた方も本来は平凡な日常の中にある、ささやかな幸せを望んでいたはずです」

 見開いた眼でアザゼルを見つめるグスタフ。ジェイマスは俯き何事か思案するそぶりを見せ、ナトリアは宙を仰ぎ涙を流していた。

「返答次第では、ここでの出来事を記憶から消しいつもの日常に戻っていただきます。あなた方は我々の存在を忘れますが、当然こちらの監視は付きます。魔法による監視ですので、いくら最先端の諜報技術を持っていても、我々の存在に気づくことはできません」

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