79 乃希
『最近は症状も収まって来たし、調子がよさそうだね。もう少しよくなってきたら退院だ』
柏木先生の言葉を思い出しながら、駅の階段を下り渋谷駅のハチ公口を目指した。
柏木病院を退院してからは『この星は悪い奴に支配されてる』『記憶を消されて閉じ込められている』なんてことは言わなくなった。でも、この感覚がなくなったわけではない。
また、病院に入れられるなんてまっぴらだし、周りからは白い目で見られるし、不利益しかないことが身に染みた。
何故この感覚から逃れられないのか。原因不明の危機感にさいなまれなければならないのか。謎は残った。
改札を出る。ハチ公の隣で手を振っている乃希。炎天下の昼下がり、笑顔が目に飛び込んでくる。
二人で映画を見てカラオケして、少し散歩して代々木公園で休んだ。こっちを見るたび、ニコニコしてくるのでつられて俺も笑顔になる。
ベンチで少し話した後、そこら辺をプラプラ歩いた。
人気がなくなった隙を見て俺は乃希の唇を奪った。
柔らかな温もりが唇を伝わって全身を駆け巡る。
キスが終わると、乃希は少し上目遣いで俺を見つめた。
「私たちずっと一緒にいようね」
「うん」
俺は頷いた。
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