第四章
78 神様
頭がボーっとする。
心が静かだ。
頭が働かない。頭に霞がかかったような変な気持ちになる。
だから薬は嫌なんだ。
『この星は悪い奴に支配されてる』『記憶を消されて閉じ込められている』なんて、言わなきゃいいのにって思うかもしれない。
でも、それを口に出さなければ自分が自分でなくなるような危機感があった。
この星を救うチャンスを永遠に逃すかのような危機感だ。
だから言い続けた。
そしたらこうなった。
意思や力が、体の先端から零れていくような感覚に侵されながら、
星が降る。クレーターだらけの大地。崩れ落ちるビル群。輝きに飲み込まれ消え去る都市。
そんな断片的な夢を小さい頃から時折見ていた。何が現実で何が夢なのか、時々わからなくなる。今この現実が夢で目が覚めたらもっと明るい楽しい世界に、生まれ変わっていたらいいのに。
公寿郎は幾度となく、胸の中に浮かべた願いを繰り返していた。
§§§
しばらくして薬の影響が落ち着いてくると、公寿郎は部屋を出て院内を散歩し始めた。独り言をブツブツ言ったり、看護師と口論している患者が多く、院内は騒がしい。
自分の部屋がある三階フロアをぐるっと一周すると談話室の椅子に腰かけ、テレビを見て時間をつぶした。
「ねえ」
声のする方を見ると髪の長い女性が立っていた。
返す言葉がうまく出てこず、少し困惑した表情で頭の中で言葉を探していると
「神様って信じる?」
とても小さな声なのに、頭の中に直接語り掛けてくるような、はっきりとした声だ。
この手のタイプか…
公寿郎は心の中で溜息をついた。
きっと宗教的な話を延々と聞かされるんだ。前にも似たような経験をしたことがある。
「さあ、どうなんですかね。いたらここから出してもらいたいんだけど。あの…」
「
「ああ、榊さん。自分は星坂公寿郎って言います。変わった名前ですね。下の名前。榊さんは信じるんですか」
「うん。信じてる。っていうかそういう星坂君も下の名前、変じゃん」
笑って公寿郎の顔を指差す乃希。
「私はいつかここから、神様が出してくれるって信じてる」
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