64 技術研究開発部 四階 医務室
法術体とは、魔法によって作り出された肉体である。戦闘によって肉体を破壊された際、すぐに替えの体に転生し、再出撃できるように用意されたスペアの肉体。
戦乱に溢れていた太古の時代とは違い、その用途は限られたものになっていたが、今回のような事態にはうってつけの代物である。
§§§
消毒液の匂いがする。ベッドに敷かれた清潔感のある真っ白なシーツの上にそれは座っていた。
「どうだ。しゃべれるか?」
ポロが問いかける。
「し…し……し………た………ぱ…い………した」
言葉にならない言葉を一つ一つ紡いでいく。その言葉の中に、時折、聞き慣れない言語が混じっていたが、次第にそれらの言葉の羅列は意味を成していった。
「……失敗した」
初めに聞き取れたのはその言葉だった。
「失敗した? 何に?」
話し手の顔を覗き込むポロ。
「だめだ。汚染は止められない。早くみんなを転送しなければ……」
頭を抱え、うなだれる男。
言葉を遮り、ポロの肩に手を置くアザゼル。
「記憶が錯乱している。過去に生き続けているのだろう。おい。しっかりしろ。私を見るんだ」
男は顔を上げ目を見開き、その視線でアザゼルを捉えた。
「あんた誰だ? ここは何処だ?」
「ここは火星だ」
「火星? では転送は成功したのか? あんたは火星移住者か?」
「いや違う。この星をエア管理統制局からの委任を受け、管理している者だ。覚えていることを教えてほしい」
「他のみんなは? ソロとパアガリア、ミッシュ、ネネは?」
「君の仲間か?」
「そうだ。除染プロジェクトのメンバーだ」
「恐らく地球にいるだろうが… 今の地球に人の姿をした者はいない。皆、放射能の影響で奇形が促進され、人外の存在になり果てている。いずれ君のように正常な肉体を与え、救うつもりだが、かなりの時間を要するだろう」
「一体、何が起きたんだ‥‥今は何年何月なんだ?」
「君たちの使っている暦とは整合性が無いから、参考にはならないだろうが、今は
「一万年… そんなバカな。思い出せない。確かに私たちは… 転送はどうなったんだ? 人格をデータ化し、通信で火星の地下の基地に転送することになっていたんだ」
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