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「統制局の方がお前に会いたいそうだ」


 上司に声を掛けられたタケダ・コウジロウは、キーボードをタイプする手を止め首を傾げた。


 応接室の扉を開け、軽く会釈をした後、応接室で待っていた二人の男にタケダは目を向けた。


「タケダ・コウジロウと申します。どういったご用件でしょうか」

「全く覚えていないようだな。まあ、外見も変わっているし、分かるはずもないか」

 向かって右側のオフィスチェアに腰かけている男が言った。

「ファゼロ刑法 第11条はご存じですね」

 先に口を開いた男の左側に座っていた男が口を開いた。

「はい」

 答えた刹那、コウジロウの頭の中で暗い想いが頭をもたげた。


 わからない。そんなはずがない。嫌だ。妻と娘と離れるのは。

 反射的に踵を返し、部屋から出ようとするコウジロウ。部屋の扉が瞬時に閉まる。


「思いだしたのか」

 右側の男が右手をかざしながら、コウジロウに語り掛ける。

「そんな、私が…まさか。何も覚えていない」

「それはそうだろう。自分で自分の記憶を消したのだから。お前のボスもつかまって安らかな眠りについているよ」

「あなたの記憶は調べました。ファゼロ全土で全市民に対して記憶調査を行いました。いずれ思い出すでしょう」

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