第315話 ドワーフ国のギルド



なるほど、アナウンスは聞こえるんだな。

俺は椅子に身体を預けたまま少し考えてみた。

アニム王国との、いや異世界人との交流を断るなんてどういうことだろう。

魔法の世界なんて、メリットしかないぞ。

いろんなことが効率よく運ぶし、低コストだ。

医療なんて、死んだほうがマシというレベルでも回復する可能性がある。

いや、レベルによっては死者蘇生も可能かもしれない。

そんなメリットを放棄してまで、何を考えている連中だろうか。

・・・・

・・・

どうやら知らない間に眠っていたらしい。

澤田さんのことも既に忘れていた。


間もなく到着します。

アナウンスが流れていた。

椅子を戻すと、フィルターが自然と解除される。

ココも静かに席を戻していたようだ。


飛行船はドワーフ国入口のギルド施設に到着した。

前に来たときに大きく壊れていた岩場の扉は修復されている。

その近くに、結構な感じの街ができていた。

メインはギルドの建物だが、それを中心に商業施設になっているようだ。


俺たちは飛行船から降りてギルドの受付フロアに向かう。

時間は11時30分を過ぎている。


ここの受付はカウンターが2つあるようだ。

とりあえず受付を通しておいた方がいいかな?

いや、必要ないか。

チラッと受付を見て、ギルドを出ようとした。

やっぱ受付は美人が多いよな。

俺はそう思って出口へ向かう。

すると、俺に声をかけてくる人がいる。

「テツ様~!」

受付のところから俺の方に走って来た。

・・・

誰だっけ?

いや、顔はいつも帝都ギルド受付で見ている。

ただ、名前がパッと出てこない。


俺は立ち止まって、その女の子が来るのを待った。

「テツ様、ドワーフのギルドに来られていたのですね。 おはようございます」

「あぁ、おはよう・・」

俺は挨拶だけを返す。

すると、帝都の受付の子が目を細めて俺を見つめる。

「・・テツ様、おはよう・・の続きの言葉を伺うかがってもいいですか?」

「え? 続きの言葉って・・」

俺は意味がわからなかった。

「私の名前です」

「・・・」

「テツ様・・あれほど私と接しておきながら、名前をお忘れですか? そういえば、アリアが美人の名前しか覚えられないとか言ってましたが・・事実ですね」

女の子がうなずぎながら言う。


「・・ポーネです」

ポーネは静かに名前を言ってくれた。

「い、いや、ポーネさん・・決して覚えていないわけじゃないんだが・・」

俺はしどろもどろに言葉を発する。

「ギルティ!」

俺の後ろでココがつぶやく。

!!

おい、ココ!

火をつけるのはやめてくれ。

心の声です、はい。


ポーネはうなずきながら、

「いえ、いいのです。 私は美人ではありませんし、それほど仕事もできるわけではありませんからね」

ポーネ、いったい何が言いたいんだ?

俺は余計にわからなくなった。


「ポーネ、何がしたいんだ?」

俺がそう聞くと、ポーネは笑いながら言う。

「あ、そうでした。 テツ様を見て、駆け寄ってきただけでした」

そして続ける。

「実は、ドワーフのギルドに届け物があって、私がお遣いで来たわけです。 午後には帰るのですけどね」

ポーネはそういう。

「そうか・・じゃ、気を付けて帰れよ」

俺はそう言葉をかけると、その場を後にしようとした。

「テツ様、つれないですね。 わかりました。 テツ様もお気をつけて。 後、帝都に帰りましたら、やはりアリアの言う通りだったと報告しておきます」

いったい何の罰ゲームなんだ? 

もう、勝手にしてくれ~。


ポーネはそういうと、ペコリと頭を下げて受付の方へ走って行った。

・・・

俺はただ、飛行船から降りてきて出て行こうとしただけですけど。

ポーネが勝手に声かけてきて、勝手に勘違い・・いや、勘違いじゃないが、話を作って・・帝都に帰ったら、またネタにされるな。

俺はそんなことを思いながら、ギルドを出る。

ココがクスッと笑っていたが、すぐに表情を戻してついて来てくれる。


さて、ここから北西へ行ったら魔導国だったな。

ライセンスカードで確認してみる。

カードから地図を表示させて自分の位置と、ドワーフの国と魔導国の位置を確認してみる。

・・・

この中間辺りに街があるわけだ。

それほど遠くはないな。

走って1時間かかるかな?

いや、わからない。

まぁ、急ぐこともないしココもいるから、ゆっくり移動してみよう。


時間は12時。


◇◇◇


優とレイアは学校の食堂に来ていた。

優はテーブルにつくと、レイアが来るのを待っているようだ。

レイアが動くと、誰かの注目を集める。

美人だからな。

「優、どうだった? 午前の授業・・」

トレイに食べ物を乗せ、優の前の席に座る。

「うん、何か・・思ってたのと違う感じがする」

優が答えると、レイアが笑いながら話しかける。

「まぁ、理論を学ぶのと実戦とは違うからね」

レイアがそういうと、子供の声が聞こえてきた。


「兄ちゃーん!」

凛が優のところへ走って来る。

優の横にちょこんと座って話始める。

「凛ね、今日魔法使ってみたの。 火の魔法だったけど、先生からすごいってほめられたの」

凛が嬉しそうに足をブラブラさせながら話していた。

「そうなのよ。 凛ちゃんすごいのよ、ね♪」

レイアが凛にウインクして援護していた。

「優、私たちも一緒にいい?」

嫁が優に聞いていた。

お義母さんもニコニコしながら一緒にいる。

優はうなずいて、トレイのご飯を食べている。


颯がバーンを頭に乗っけて、ゆっくりとみんなの方に向かってきた。

颯の横に小さな女の子が一緒にいる。

タイプが颯と似ているようだ。

静かでおとなしい感じがする。


「颯、その子は?」

嫁が聞いていた。

凛は足をブラブラしながら嫁が持ってきた食事を食べている。

スラちゃんは、ばあちゃんにあずけてきたそうだ。

「うん、一緒の教室で友達になった・・」

颯がそういうと、その女の子はペコリと頭を下げて、颯と一緒に席についた。

席について、その女の子は周りを一通り見渡している。

「あの・・私・・教室で・・いろんな人にからかわれているところを、颯さんに声をかけてもらって・・」

その女の子はモジモジしながら話していた。


嫁たちは黙って聞いている。

「そう・・ま、お昼を食べましょ!」

嫁が取りあえず返答し、颯と一緒に食事を取りに行った。


その間に優がレイアにつぶやくように言っていた。

「おっさん、てっきり一緒に学校来ると思っていたのに・・」

「優、テツさんもそのうち通うわよ、たぶん・・」

レイアも言っていて、途中から自信がなくなったようだ。

「優君、テツはギルマスに仕事を頼まれたようだぞ」

フレイアが食べながらつぶやく。

優は静かに飯を食べる。


レイアがそっと立ち上がると、フレイアに近寄っていく。

「お姉ちゃん、気づいた?」

「うん」

フレイアとレイアが目を合わせながら小さな声で話していた。

「あの子、デミヒューマンよね。 でも、なぜ帝都の学校にいるのかしら?」

フレイアがやや不安そうな顔をしてつぶやいていた。

「お姉ちゃん、そのうちにわかるでしょ。 嫌な感じはしなかったし、王様も受け入れてるってことは、大丈夫じゃない?」

レイアは軽く答える。

それを聞きフレイアの表情も少し明るくなった。


◇◇◇


ばあちゃんの家では、ばあちゃんが掃除をしていた。

「ほんとに、あなたは便利ねぇ・・」

ばあちゃんはそう言って、スラちゃんに出るごみをいっぱい食べさせていた。


◇◇◇

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