第153話 蛭田要対皇蒼馬 その②

 前蹴り。


 皇 蒼馬は分析する。


 大きなステップイン。 着地した軸足を捻り飛ぶ。 そして前蹴り――――いや、当たる直前に腰を捻り、一瞬だけサイドキックに変化している。


 決して強くない。強打ではなく、素早く当てる事を目的にしている。


 軽く当てる。 それでも前に出れない。 こちらの動きを止めるには十分な威力――――


 いや、強引に行けば――――


 蒼馬は実行した。 ガードを固めて強く踏み込む。


 無理やり距離を縮める。 すると、打撃に変化が起きる。


 蹴りから拳に―――― ボクシングでいうジャブの連続。


 威力は落ちるが手数が増えていく。


 一瞬、蒼馬の圧がなくなる。 しかし、さらに蒼馬は強引に――――


 要は笑っていた。 彼の狙いは接近戦。


 強引に来た相手は、間合いを詰めきった時に油断が生まれる。


 そこで必殺の――――


 間合いを詰めきった蒼馬に要は肘を叩き込んだ。


 グローブも何もなく、人体でも強度な骨を有する肘。


 素早い肘打ちは肉包丁と喩えられるように切れ味までも有す。


(渾身の一撃。 ――――勝った!)


 だが、それでも蒼馬は止まらなかった。


 蒼馬が放つのは鍵突き。ボクシングでいうフックを叩き込む。


 鍛えられた空手家の拳が、腹筋に叩き込まれていく。


 それだけだった。 鍛えられた腹筋は一撃で貫かれ、呼吸が止まる。


 倒れた要。 それを油断せずに構え直す――――残心を取る蒼馬。


 一撃。 空手の代名詞である一撃必殺が決まり、会場は静まり返った。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


「強い」と感想を漏らす観客が何人もいた。


 それはセコンドの立場である零や高頭も同じだった。


「つくづく、彼がTEAMに参加してくれてよかったと思いますね」


「本当になんで味方に引き込めたんですか?」


「空手以外でもやりたい。そう短く言ってましたよ」


「……それだけですか?」


「そう、それだけ。シンプルな奴でしょ?」


「……えぇ、性格もスタイルもシンプルだ。シンプルだからこそ――――強い」


 零は会場から外に出る蒼馬を見た。


 無関心に見える表情。しかし、どこか表情に変化が見えた。


 それが、どのような感情によるものなのか? 零には、まだわからなかった。 


 


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