第132話 佐々間 零の現在

 鉄審空手 本家


 かつてボロボロだったビル。 門下生を見かけない空手道場。


 それも過去の話。  ユーチュバー最強トーナメントと銘打った大会の成功。

 

 その放送権利など映像放送権を有し、それなりの利益を得た鉄審空手は、ビルとは言えないが、それなりの広さを持つ道場を新調した。


 むろん、映像権だけではない。 全国からの入門者が増えている。


 館長 岡山 達也は、大会を年に2回。


 加えて、同じルールで空手の大会を開いて、優勝者や準優勝者を大会に送り込めば……


 そんな方針に向かっているため、プロジェクトの中心人物として、館長の腹心である佐々間 零は忙しい中でありながら本部に呼ばれていた。


「お呼びでしょうか?」と不満が口調に出ている。


「応! 見たか?」


「……見ましたよ」


 当然、高頭剣慈率いるTEAMアスカの動画。その第一弾……


「どう見た?」


「あれは、破滅に動いています。 事実上の半グレの公開処刑。警察も本物か、フェイクか? 調査しているそうです」


「まぁ……本物だろうよ。 かつての郡司飛鳥1人だった時にはあり得ない動きだ」


「えぇ、彼は良くも悪くも、問題を起こした格闘家を表舞台に送り返す役割でしたから」


「ありゃ、怨念だろうよ。 敵討ちだろうよ」


「うちへの復讐ですか?」


「いやいや、そこは納得済みだ。もっとデカい……格闘技全体へ訴えたいのさ。郡司飛鳥はここにいたってな」


「存在を証明したい……彼は間違っていなかったと?」


「そんな連中だからな。当然、挑戦状がきた」


「なんと!」


「お前は……でるな」


「なぜ? なぜですか?」


「連中の正体は、全貌が見えねぇ。 強かったら良いが……おめぇ、弱かったらどうする?」


「……」


「だろ? 全員が郡司飛鳥だ? あり得ねぇよ、そんな事」


「ですが……」


「やりてぇか?」


「はい」


「心配するな。奴らが本物だったら、やる事になる。 大した事ないから……無視しろ」


「……わかりました」


 そう言って零は、館長室を出る。


 近日の忙しさ。 


 それでも空手の稽古は怠らない。


 それでも感じる衰え。 


 睡眠時間を削っての稽古。 ……いや、睡眠時でも何か鍛錬はできないか?


 そう思え、考え続ける毎日。そんな中――――


「お待ちしていました。佐々間 零さん」


 人気のない飲み屋。 そこに彼は、高頭剣慈がいた。


「今日は、何の要件ですか? うちとやると聞いていますが、私はでませんよ」


「あー そうなんですか? いやぁ、残念だな」と心が入っていない言葉。


 最初から佐々間 零は出てこないと予想していたのだろう。


「それで、相談なんですが……鉄審空手止めて、うちに来ません?」


 高頭剣慈は引き抜きに来たのだった。

  

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