第129話 再開

  格闘フリークたちの間で話題になっている動画がある。


 長い間、更新が途絶えていたYouTubeチャンネル。


 配信者の死亡をもって終了したと思われていたそれに動きがあった。


 新着の文字


 しかし、それは新たな動画が更新され、10分に満たない時間で削除された。


 チャンネル登録も激減していた、そのチャンネル。 動画が見れたのは僅かな人間のみ……しかし、僅かな人間は動画を保存する事に成功。


 フリークたちの間で、広くみられる事になった。


 その動画のタイトルは、こうだったらしい。


 『郡司飛鳥の再起』


 映し出されたのは彼の生前の姿。そして、編集された激戦の数々……


 そして――――『TEAMアスカ』のロゴが大きく表示される。


 さらに、その3日後――――


 廃墟となったビル。 そこに朽ち果てたように古めかしいリングが設置されていた。


 八角形……オクタゴンのリングだ。


 「ここか……」と現れたのは、金髪の男だった。


 昭和のヤンキーをイメージさせるような男。 立てらせた金髪。素肌にスカジャンを着ている。


 まだ、近年でも、このような男がいたのか? そう思わせるような出で立ち。


 正確には、彼は半グレと言われる部類の男だった。 それもトップの人間。


 なぜ、そんな彼がここに? 理由はわからない。ただ、土足のままリングに上がり、ロープに体を委ねる。


「いいじゃん。あんたら面白いわ……そんで? いつまで客を待たせるの?」


 その言葉に何かが反応する気配。 影に隠れていた人間が出てくる。


「アンタが高頭剣慈?」


「あぁ」


「ふ~ん、それでアンタが用意した相手に勝ったら、100万って本当?」


「本当だ」


「うわぁリッチマン……でもさぁ、そのくらいならチームのメンバーが上納金くれるんだ……わかるだろ?」


「ファイトマネーの上乗せか?」


「いいや? もし、俺が勝ったら、アンタらがやってる商売の権利をくれ」


「どういう意味だ?」


「お前らの儲けを全部くれよ。 いいじゃん。どうせ、お前等は撮影して戦うだけなんだからよぉ」


 男は笑う。 しかし高頭剣慈は……


「それで構わない。 どうせ、負けるのはお前なんだからな」


 空気が凍り付く。 両者の間に聞こえるはずのない異音がピキ゚ッと聞こえる。


 「……そうかよ。じゃ、その俺様より強い強い対戦相手ってのはどこだ? おっさんが相手じゃねぇだろよ?」


 「すでにここにいる」と高頭は後ろに下がった。 そこで初めて気づく。


 小柄な男が立っている。 まるで女と見間違うような中性的な男。


 第一印象は、とても強そうに見えない。そういう男――――いや、少年だった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る