第125話 聡明の勧誘?

ジムの会長 鈴木伝介は上機嫌だった。


ボクシングのインカレで実績を残した選手が入門したからだ。


狙える……ベルト。 狙える……練習生の大幅増加。


そんな、取らぬ狸の皮算用をしながら……


「なんじゃ? ジムの方が騒がしい」と耳を澄ます。


すると――――


「スポンサーならソシャゲですよ。テレビのゴールデンタイムなんてソシャゲばかりでしょ? 今、ガチャ批判をテレビでやったら絶対に干されますね」


「……そういう物なのか?」


「聡明さん、時世に関心なさすぎないですか? ほら、有名な那須川天心なんてグラブルの所がスポンサーでしょ? あと有名なFGOとか、大量のプロゴルファーに金出してますよ!」


そんな他愛のない世間話……しかし、そのボリュームは怒声と言って良い。


「なんじゃ? 喧嘩か? なぜ、誰も止めぬ」と鈴木会長はリングを見る。


「なっ……花 聡明! なんでここに! 相手は誰が……響かッ!」


 それに気づいた聡明は、響から距離を取る。


「そちらが会長? ちょうどいい。コイツ貰っていくぜ」


「何を言っておる! 選手を物みたいに!」


「おっと、勘違いするなよ。別に引き抜きじゃない」


「何を……」


「名義貸しだよ。 所属はおたくのジムでいい。俺が鍛えてやる」


「……お前、少しだけ外に出ておれ」と練習生を睨む。


それを確認してから……


「馬鹿な。名義貸しなど、協会に知られれば、どんな処分が下るか……」


「まぁ、実態があればいいのさ。 週に2回は、ここで基礎トレでもやらせばいい」


「ぬぐぐ……」と鈴木会長は唸る。


 会長も高齢。


 もはや、熱心に練習生を指導することもなく、情熱は消えている。


 いつの間にかキックはビジネス……特に響という金のたまごが着てから、その傾向が加速していた。


(花聡明が専属トレーナー……願ってもない機会じゃが……)


「金は出さぬぞ」


「……そんなつもりはないさ」

 

 そんな黒い会話。だが、当の本人は――――


「フンッ!」と聡明に殴りかかる。 


「おいおい、慌てるなよ」


「いや、会話に熱中してるみたいなので……勝手に殴らせてもらうと思ってね」


「まぁ、スパーの最中に悪かったな。すまん」と聡明は謝る。 こういう時は素直に謝る男だった。


「2人で熱心な話ですけど、当事者の意見は無視ですか?」


「うん? 嫌か?」


「嫌ですよ。 少なくとも自分より弱い人に教わるのは」


「へぇ、言うじゃねぇか。 そろそろ、このスパーを終わらしに行くか」


「良いですね。 格闘家同士なら難しい話は拳で決めましょう」


「……お前、いつか詐欺に会うぞ」


「それは楽しみです。自分よりも強い詐欺なんて素敵じゃないですか」


「はっ―――言ってろ!」 

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