第95話ロベルト対犬養恵梨香

 神の儀式と言える国技 相撲。


 国技でありながら――――いや、だからだろうか?


 決して土俵に立てない力士がいる。 


 両国国技館に立てない事を生まれながらに宿命付けられた力士がいる。


 これは、日本人なら誰もが知っている事実だ。 だが、もしかしたら意識すらしていないのかもしれない。


 彼女の名前は犬養恵梨香。 世界相撲選手権大会 女子無差別級優勝


 つまり、女性である。



 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・

 

 ロベルトは困惑している。


 殴っていいのだろうか? 蹴とばしていいのだろうか?


 カルチョ・ストーリコで様々なバックボーンを持った人間と戦ってきた。


 だが、やはり女性を痛めつけるのは躊躇する。


 男性と女性の差。 


 例えば、筋肉を大きくした者はホルモン剤を注射する。


 逆に自身を女性化させたい男は女性ホルモンを注射する。


 ホルモンの差。 それは壁のように大きく体を隔てる事に異論はないだろう。


 目前の恵梨香を見る。


 デカい。100キロを越えている肉体。


 しかし、どこか柔らかさと丸みを感じる。


 白い柔肌は、日本のライスフードであるオモチをロベルトは連想する。


 既に構えている。両手を地面に付けて前のめり。 


 真剣だ。 どこまでも真剣な眼差し。 


 戦う者の覚悟があって、ここにきている。


 ――――ならばとロベルトも覚悟を決まる。


 そして試合が始まった。


 力士の立ち合い。


 人と人。肉と肉。 およそ、それがぶつかった音とは思えない音だった。


 恵梨香はロベルトのトランクスをマワシに見立てて両手で掴み上げる。


 しかし、両者ともに動かない。


 ロベルトの首が力を失い、頭が揺れている。


 組み合った瞬間にロベルトは失神していたのだ。


 相撲の立ち合い。


 力士は相手にどこでぶつかっていくのか? 


 大きく分けて3か所ある。


 頭、肩、そして肘だ。


 かちあげと言われる技術。 要するに肘打ちだ。


 100キロを超える突進からの肘打ち。


 一説によると、女性と男性の筋肉の構造。 足回りには大きな違いはないそうだ。 


 さらにフルコン空手の父 大山倍達曰く――――


 猿臂(肘)ならば女子供でも大の男をKOする事ができる。


 ならば耐えきれまい。  力士が放つ肘打ちに……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る