第94話吉田・ソムチャイ・AK47対花 聡明⑥

 パウンド


 ガードポジションなど寝技の状態で行われる打撃の総称。


 相手をただ殴ると言っても技術がいる。 しかも、それは立ち技の打撃と大きく違っている。


 例えば、ある選手は水泳のクロール様な軌道で殴る。


 例えば、膝立ちの状態から強打を打つために尻を足の延長と意識させて殴る。


 それらを学んだ聡明のパウンドは、強烈の一言。


 ソムチャイのガードへ叩きこむ。 ガードと言うよりも避難のように見える。


 そして、防御の隙間へ拳が叩きこまれる。


 一度入ると次の打撃が続く。1撃、2撃、3撃……


 止まらない。


 無防備になったソムチャイに打ち込まれる打撃。


 もはや……意識がない。


 勝ち名乗りをあげる聡明。 だが、どこか憮然としない表情。


 打倒 ムエタイ。 


 キックボクシングがこの国で生まれた瞬間に宿命付けられた歴史。


 頭ではわかっている。 これが今回のルールだ。


 しかし、それでも――――


 

 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・・


 一回戦 最後の試合が始まる。


 ロベルトはイタリア人だ。


 イタリアの伊達男と呼んでもいい甘いマスク。


 しかし、その肉体はヘビー級に近い。 


 喧嘩フットボールとも言わる競技 カルチョ・ストーリコの選手だ。


 カルチョ・ストーリコとは、どのような競技か?


 27人対27人で行われる球技だが、そのルールが凄い。


 ボールを持った攻撃側は、まず自陣の後方に下がる。


 その間、中央の選手たちは素手で殴り合う。 


 それからタックルを決められ抑え込まれた選手。相手を倒した選手は、攻撃が終わるまで双方共に立ち上がるのを禁じられる。


 こうして、人数が減った所で、ボールを持った選手たちの攻撃が始まり、ゴールを目指す。


 アマチュア競技であるために、ボクサーやレスラーなどの参加が認められている。


 素手でボクサーやレスラーと殴り合う競技。 


 ロベルトは、そんな競技の選手だった。


 一方の対戦相手は――――

 


 

 

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