第51話 ヘビー級ボクサー 大海原 祥① 


 ボクシングにおいてヘビー級は花形と言ってもいい。


 しかし、日本においてヘビー級ボクサーは不遇だった。


 なんせ、10年前まで階級はミドル級まで。それ以上の階級は正式なものではなかった。


 ヘビー級ボクサーもいない事はなかったが、その数の少なさから正式な試合というよりもイベント的な出演という役割も多かった。


 そんな不遇の時代も終わり、現在は徐々に光明が見えてきている。


 大海原 祥


 今宵の飛鳥の相手。現役のヘビー級ボクサーで元力士である。


 なぜ、力士がボクシングへ転向を? と思う方もいるかも知れないが、ボクシングのヘビー級は元力士が意外と多い。


 まぁ、日本において相撲取りは600人いる。


 ほとんどの日本人だと考えれば、日本のヘビー級格闘技者を独占している状態だといってもいいだろう。


 他の格闘技に転向を望む者もいるだろう。


 さて……しかし、600人だ。 この人数、思ってしまうことがある。


 日本人は筋量で外国人で勝てない。 生まれつきの筋肉が違う。


 よく聞く意見ではあるが……本当だろうか?


 もしも、仮に600人の力士たちが相撲ではなく、ボクシングを選択してもそうなるだろうか?


 本当の本当に10年くらい600人のヘビー級格闘家がボクシングを始めたとして、誰1人として世界ランカーになれない……なんて事が本当に起こりえるだろうか?


ボクシングだけではなく、他の競技でも同じだ。 


大相撲によって独占されている日本人ヘビー級格闘家たち。彼らが一斉に開放された時、一体どのような変化が様々な競技に起こるか……


さて、何はともあれ閑話休題ってやつだ。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・

 

不遜。


その二文字が大海原 祥という男をよく表している。


どこか不満げ、どこかつまらなげ、そんな男がオクタゴンに上がり、軽く体を動かしている。


そう、元力士のヘビー級ボクサーと思えないほど、その動きは機敏で軽やかであった。


そんな彼が、ボクシンググローブを外してオープンフィンガーグローブをつける。


どこか……うっとりとした表情でグローブを見つめている。


その光景をみたら、誰もがこう思うだろう。


嗚呼、きっとこの人は人間をぶん殴るのが好きなんだろう。


事実、祥という人物は人を殴るのが好き人物だった。


殴って褒められる。そんな居場所を求め、土俵へ、リングへ……そして、今は八角形のリングに立っている。


そんな祥に対峙するように立っているのは飛鳥だ。


しかし……どこか……様子がおかしく見える。



 

  

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