第43話 ボディビル 梅垣 慎吾⑥

 慎吾ダウン。 しかし―――


 「おいおい、冗談じゃねぇぞ」と聡明は声を荒げた。


 「あのハイを食らって片膝つける程度のフラッシュダウンだ!」


 彼の言う通り、慎吾の意識は混濁していなかった。


 ダメージではなく、放たれた打撃の衝撃でバランスを崩して倒れただけ……


 それでもダメージが低いわけではないのだ。


 間違いないチャンス。しかし、飛鳥は動かなかった。それどころか……


 「あんた、楽しいか?」と話しかけた。


 「……」


 「アンタの戦い方、黙々と淡々とした攻撃の繰り返しだ」


 「あぁ、なるほど。お前には俺の戦い方がつまらないように感じるのだな」


 ここにきて初めて声を発した慎吾。低い特徴的な声だった。


 「だが、俺は自分の戦い方が好きだ」

 

 「へぇ……意外だな」


 「コツコツと計画通りに戦い、時として自分の予想を超える出来事が起きる。なんだかボディビルに似ているからな」


 慎吾は照れたように笑う。


 「アンタ、笑うんだな」


 「ふん、茶化すなよ」


 「本音だよ」


 「……それじゃ続けるか?」


 「あぁ、続けよう」


 慎吾は立ち上がった。 体を上下にリズムを刻むアウトボクシング。

 

 対して、飛鳥は前傾姿勢。前へ前へと進む構えだ。


 飛鳥が前に出る。 慎吾は我慢して、我慢して……間合いに入るギリギリで下がる。

 

 慎吾は、飛鳥の攻撃をギリギリで避けれる間合いを維持。 


 ギリギリで避け、僅かに間合いが縮まった時に手を出す。


 攻める飛鳥。 下がる慎吾。


 しかし、この戦い。不利なのは慎吾の方だ。


 人間は下がる速度よりも前に走る速度が速い。


 アウトボクシングを崩すには、待ち構えている相手を叩きのめすための勇気。


 そして、ついに――――飛鳥は慎吾に追いついた。


 それについて、聡明と零は


 「慎吾の奴が足を止めたか」


 「しかし、彼はインファイトができないわけではありませんよ。それに総合ルールです。必ずしもインファイトをするとは……」


 零の言う通り、慎吾は接近戦が苦手なわけではない。


 アウトボクシングを多用するのは単純な好みの問題。


 懐に入り込んだ飛鳥を慎吾は腕で押し返す。 簡単に押し戻された飛鳥に慎吾の剛腕が振るわれる。


 紙一重で、躱して再び懐へ。


 軽い打撃を2、3発放つ飛鳥。 打ち返す慎吾。


飛鳥のガードした腕がミシミシと軋みのような音が聞こえる。


 

 

 


 

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