第40話 ボディビル 梅垣 慎吾③
慎吾は姿を現してから、いまだに一言も言葉を発していない。
「……」と無言。
それが飛鳥にとって、たまらなく嫌だった。
戦いから人間の心を引き出す。 それが飛鳥というユーチュバーとしてのスタイルだ。
しかし、慎吾は無言。表情も無表情。戦い方も、どこか機械的で冷たいものを感じる。
だが、目前の慎吾は鍛えられた肉体を有している。
そんな体の持ち主に心に秘めた物がないわけがない。
なぜ、そこまで鍛えたのか? なぜ、この戦いを承諾したのか?
それを引き出したい。だが、その糸口が見つからない。
だから、飛鳥は飛び込んだ。
慎吾に対して
筋肉お化けに押し合いのパワー勝負を挑む。
それは無謀。しかし、そこまでやらなければ見えてこない。
梅垣 慎吾の内側が……
ガードを固めて、突っ込む飛鳥。 しかし―――
衝撃
飛鳥は衝撃を感じた。
体当たりのように体ごとぶつかった飛鳥。
それを慎吾は肘打ちで追撃。 いや、正確には肘打ちではなく、前腕で飛鳥の突進を止めたのだ。
それも片手で……
そのまま片手で押し返し、飛鳥の上半身が上がっていく。
飛鳥は視線の隅、下から迫ってくる影を捉える。
それは慎吾の拳だった。
アッパーカット
下からの打撃で体が浮き上がっていくような錯覚……本当に錯覚だろうか?
ガードしたはず腕を貫く衝撃に襲われる。
慎吾の攻撃は止まらない。
肉だるまのような体から放たれた次の攻撃はハイキック。
バランスを崩し、吹き飛ばされる飛鳥。
だが―――
(倒れるな。倒れたら、ここで終わる)
片手を地面につきダウン拒否。
そのまま体勢を直して立ち上がろうとするが、今度は慎吾が前に出ていた。
片手をつき中腰状態の飛鳥に対して、間合いを詰めた慎吾は拳を振るう。
上から下へ振り下ろされた拳。だから……
上から下へ意識が行っているから気づかない。
すでに下から上に弧を描くように放たれていた飛鳥の拳。
オーバーハンドの右フック。
飛鳥のカウンターが慎吾の顔面を捉えた。
果たして、その手ごたえは?
(打ちぬけない!)
飛鳥は驚愕した。 これ以上ないタイミングの強打。
これでKOできない者はいない。 そんな確信をもって放った右フック。
だが、慎吾の頭部は微動だにしない。
首
ブリッジとした状態で成人男性5人くらいを乗せて鍛えた慎吾の首。
それは、もはや飛鳥の知る人類の首ではない。
動きが止まった飛鳥の体を慎吾は掴む。 場所は肩だ。
飛鳥は身を捻らせ、慎吾の手から逃げようとする。だが……
ミシッと掴まれた肩から軋むような音。
強く掴まれただけ、それでも肩に激痛が走る。
そのまま飛鳥の
(急所蹴り? いや、違う!)
急所蹴りを意識したことで飛鳥の反応が遅れる。
足を跳ね上げながら、慎吾は反転。
柔道でいう内股という投げ技。
慎吾の跳ね上げられた足の目的は急所ではなく飛鳥の片足を打ち上げ、捻りを加えること投げるためだった。
飛鳥にゾクリとした寒気が走る。
慎吾の膨大な筋量。 そこから繰り広げられる寝技。
想像するだけで恐怖が走り抜けたのだった。
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