第39話 ボディビル 梅垣 慎吾②

 今までもパワー系の格闘家と多く戦ってきた飛鳥だが、


 梅垣 真悟


 その肉体は別格だった。


 決して大柄とは言えない身長。体重も飛鳥と大差がない……そのはずだった。


 だが、巨大デカいと印象を与えてくる。


 レスリング系格闘家の肉体をさらに大きくしたようなバランス。


 強い。 きっと、格闘技をやっていなくても強いだろう。


 そう思わせるような肉体だった。


 慎吾はオープンフィンガーグローブを受け取ると慣れた手つきで装着。


 体を温めるようにシャドーボクシングを行う。


 その感想を2人の打撃専門家が言う。


 「体に似合わず軽やかなステップだな。付け焼刃じゃない」と聡明。


 「そうですね。加えるとパンチとパンチの間、僅かに前傾姿勢になっています。おそらく、飛び込んでの強打。あるいはタックルが本命で隠している動きでしょうね」と零。


「では、そろそろ始めましょうか」と飛鳥はリングの中心に立った。


慎吾は「……」と無言で飛鳥に近づき、戦いがはじまった。


・・・


・・・・・


・・・・・・・・・


慎吾は慎重にジャブ、ジャブと距離を測るように繰り出しながら、左に回っていく。


飛鳥は徐々に距離を詰めようと前にでる。


それに合わせてローを放つと慎吾は後ろに下がり、再び左回り。


それを見た零と聡明は――――


「アウトボクシング? あの肉体でヒット&アウェイ……ですか?」


「立ち上がりを見て、どんな作戦かなんてわかるもんか。ただ……」


「ただ? なんです?」


「今回のルールは俺とやったキックルールじゃなくてMMAルール。あれは、そういう戦い方だろ?」


「なるほど、近代総合格闘技のセオリーですか」


総合格闘技も進化している。 向上したボクシング技術では打撃のKOは難しく、洗練された柔術テクニックでは一本勝ちは難しくなっている。


打撃でも寝技でも明確な勝敗がつけられない試合が増え、結果として判定で優先されるポイントは打撃でも寝技でもなく、タックルなどのテイクダウンの有無。


1R5分の試合ならば、寝技に移行しても関節が極めるのが難しい時間帯……残り1分のタイミングで近代総合格闘家はタックルを狙い始める。


「ですが、飛鳥さんの撮影MMAルールでは時間無制限でラウンド制じゃないですよ」


「元々、そういう戦い方を練習しているんだろ。今回だけ戦い方を変える必要はないわなぁ」


「本当にそうでしょうか? それに……」


「あん?」


そんな両者の会話の最中、戦いが動いた。


「それに飛鳥さんはユーチュバーですよ。視聴者が楽しめない戦いは望まない」


その零の言葉通り、動いたの飛鳥だった。


インファイト


頭部のガードを固め、飛鳥は密着するために前に出た。

 




 


 

 

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