第14話 転章 ③
「郡司飛鳥……体格はウェルター級くらいでしょうか?」
零は呟いた。
先ほどのヘビー級のキンボと比べれると見劣りするのは仕方がないとは言え……
「館長?」
「ん? なんだ?」
「ここに、この試合はフェイクだと注意が書かれていますが?」
「あぁ、そりゃそうだろ」
「?」
「一応、日本は法治国家だ。男が2人で殴りあうのは犯罪だぜ?」
「博識ですね。まさか、館長が殴り合いが犯罪だと知っているなんて思ってもみませんでした」
「ねぇ、お前って、そんなに俺の事を嫌いなわけ?」と達也はすねた顔を見せた。
「まぁ……決闘罪予防だろうよ。試合中にもエフェクトを入れたりしているが……見る奴が見ればわかるさ」
「郡司飛鳥は本物だと?」
「ふん、見ればわかると言ってるじゃねぇか。相手を見ろよ」
「――――ッ!? こ、壊し屋内藤。表に出てきたのですか?」
「おっ、流石に空手業界には詳しいね」
そんな皮肉にも反応しないほどに零は画面に集中した。
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「どうだい? ずいぶんと新しい玩具にご執着のようだが?」
しかし、「わかりません」と零は顔を伏せた。
そして、こう続けた。
「戦いの最中に、会話を交えて、それが……」
「それが、たまらなく楽しそうに見える。じゃ俺たちがやってる事はなんだ? 俺たちゃ、無言で人を殴るのも、人から殴られる事も大好きな変態集団じゃなかったとか? そんな疑問が頭を過ぎるだろ?」
「いえ、私は館長と違い、痛められて喜ぶような性癖を有していませんので」
「君、その容姿で下ネタに持ってくるのやめてくれない? 意図してないのに、セクハラしてるみたいで精神的ダメージでしんどいのだけど」
「善処します」と零は笑った。それから、
「それで、この郡司と男をどうしたいのですか? まさか、戦いたいとでも?」
「それこそ、まさかだろうよ? 俺は、誤魔化し、誤魔化しやってるけど、俺は格闘家でもなんでもないんだぜ?」
「またまた、ご謙遜を」
「必要以上に俺を持ち上げるな。調子に乗っちまうだろ? 俺はコイツがほしいだけ……おっと、下ネタじゃねぇぞ? あん?そっちのネタは門漢外だと? 知るかよ」
とにかくだ。と達也は零が茶々を入れてくるの途切れさした。
「はっきり言って、先代と先々代の館長は無能だった」
いきなりの身内批判に「はぁ」と零は誤魔化すような相槌を打つしかなかった。
「20年前はどんだけ凄い格闘技ブームがあったか? 知ってるだろ?」
「それは、もちろん……」と答えるが20年前の零は生まれて間もない頃だ。
しかし、知識としては知っている。
90年代初頭にアメリカでUFCという団体がバーリトゥードと特殊ルールの格闘技を始める。
バーリトゥードは、ポルトガル語で『なんでもあり』と言う意味であり、それがルールだった。
金網の中で男が2名立ち、素手で戦う。
殴っても、蹴ってもいい。 倒して、関節技も絞め技も使っていい。
馬乗りで殴ってもいい。
目潰し、噛み付き……反則ではない。 1度につき日本円で100万円の罰金処理だ。
凶悪なルールだが……成功した。
その熱量は日本にも飛び火した――――いや、それ以前に下地はできていたわけだが。
以降、20年近くの格闘技ブームが続き、日本が世界を牽引していたのだ。
「親父は馬鹿だぜ。分家と比べたら、門下生の数が雲泥の差とは言え、まだまだ海外にゃ有力選手がいた。そいつ等、全員が安いファイトマネーで日本に呼び寄せられたのによ」
「それはプロ格闘技への参入という事ですか?」
「あぁ、大きな会場じゃなくてもいい。後楽園ホールを貸しきったって100万円くらいだぞ? 重要なのは、うちに入門して頑張ればプロ格闘家になれるってガキたちに夢を見させれることだ」
プロ格闘家。それに憧れる人間は意外と多い。
「なるほど、それが郡司飛鳥とどのような……」
「連れてこい」
「……はい?」
「面白いじゃねぇか。この飛鳥をうまく使ってやれば、うちが日本の格闘技を再び牽引のも夢じゃないぜ」
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