第82話
放課後。
高嶺繭香が夏川雫に衝撃的な告白をされている頃。
小森翔太は言葉を失っていた。
泉天使のスマホに流れる映像――夏川雫と小森翔太がラブホテルから出て来たところを赤鬼になった砂川健吾が乱入――を見せられているからである。
(やめて! 恋人である砂川健吾くんが夏川さんを大切に想っていたことを知ってしまったらギリギリのところで耐えていた泉さんの精神まで燃え尽きちゃう! お願い、死なないで泉さん! 貴女が今ここで倒れたら僕と結んだ協定はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば残酷な現実に勝てるんだから!)
「もし良かったらこれから一緒に樹海に行きませんか翔太さん」
(次回「泉さん死す」デュエルスタンバイ! ――って、ふざけている場合じゃなくて‼︎ あまりの絶望にふざけた思考で現実逃避しちゃったじゃないか! ちょっ、ちょっと待ってよ⁉︎ どうして泉さんがあの夜の映像を⁉︎ まさか騒ぎが大きくなって通行人の誰かが隠し撮りをしてSNSに拡散したんじゃ……)
「飛び降り自殺って気持ち良いらしいですよ? 私と一緒に気持ち良いことしませんか?」
「ひぃッ!」
虚ろな瞳で顔を近づける泉天使。
ちなみにだが、彼女の一連の言動は演技。
小森翔太を揶揄うことで何とか悲しい現実から目を背けようとしているのである。
(泉さんの瞳から光が! 光が消えている! 病んでるよ! 間違いなく病んじゃってる! どどどどうしよう⁉︎ こういう場合はやっぱり精神科の病院に連れて行ってあげるべきだよね? さすがにこの現実ばかりは僕なんかじゃ庇いきれないよ⁉︎)
(飲み物が入っていないコップをストローでかき混ぜる泉)
(ひぃええええええええええええええええっー‼︎ こっ、これは原作ファンを絶望と鬱の淵に叩き落とした伝説の空鍋――じゃなくて空コップ! 悪夢の象徴だ!)
「おっ、おおお、落ち着いて、泉さん」
あまりの恐怖から声が震える小森。
(あれ? さては翔太さん本気で私のことを怖がってますね? 悪魔ならまだしも天使の私に恐怖を覚えるなんてどういうつもりですか。よし。せっかくだし、もうちょっとだけ付き合ってもらいますよ?)
「落ち着いて? 彼氏が浮気相手のことを真剣に愛していた光景を目の前にして落ち着いて? ふふっ、面白い冗談を言えるようになりましたね」
(きゃああああああああああああああああああああああああああああッー! もうどうしろ⁉︎ 僕にどうしろと! えっ、なにこれ⁉︎ もしかして僕、泉さんと心中ルートに入っちゃたの? いやいやいや、何でだよ! たしかに僕の不注意や軽率な行動こそあったものの、命で償わなきゃならないほどの罪を背負った覚えはないんだけど!)
――カチャ、カチャ。
(なんか泉さんの制服から金属が擦れた音が響いているんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッー⁉︎ ガチじゃん! これもうガチじゃん。聞いたらわかる、マジのやつやん!)
(あの夜、何が起こったのかを確認するまで翔太さんを帰さないように持ってきたおもちゃの手錠がスカートの中で擦れちゃった――って、どうしたんですか翔太さん? 顔が真っ青になってますよ?)
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