第80話

「どっ、どういうこと翔ちゃん?」

 頬をピクピクさせながら小森に視線を向ける高嶺。

 表情筋だけで笑顔を作り出す神業に教室が


((((なんかよく分からんけど修羅場だああああーっ‼︎))))

 対外的には元カノである夏川と今カノである高嶺が火花を散らしあっている。

 その光景にクラスメイトたちは戦慄していた。


 もちろんそれは小森も同様で、

(ひぃっ……! なんかよく分からないけど繭姉がお怒りだ。でっ、でも怒られる道理はないよね? だって僕たちは偽装カップル――はっ! そういうことか。これは繭姉の演技なんだね⁉︎ 夏川さんから一緒に出かけたことを匂わせる発言があれば、本物の彼女なら怒って当然だもん! それにしては迫真の演技……すごいや。女優さんになれるレベルだよ。とっ、とりあえず正直に答えておこう)


「実は砂川くんに贈るプレゼントを一緒に買いに来て欲しいって頼まれて」


(違え! 砂川は小森を嫉妬させるためのフェイク。つまり夏川の野郎は正真正銘てめえを攻略するためにデートに誘ったってことだ。それよか一番気になってるのはなんで二人がラブホテルに居たのかってことで……! とはいえこれだけの面前でバカ正直に聞く訳にもいかねえし)


「ふーん。じゃあさ――」


 ――


 確信へ迫る高嶺。


(やっ、やっぱり気にしてたんだ。彼氏持ちの女の子――桜ノ宮高校一番の美少女とラブホテルにいたんだもん。意味不明だよね。ちょうど夏川さんもいることだし、ここで誤解を解いて――)


「そのことだけれど――放課後、時間はあるかしら高嶺さん?」

 視線を向けてきた小森をスルーし、予定を確認する夏川。

「「えっ?」」


(やっぱりこれだけクラスメイトに注目されている状況で説明するのは嫌ってことかな? きっと砂川くんとも仲直りしているだろうし、そんな状況で僕とラブホテルに行っていた情報が漏れて独り歩きしちゃったら、大変だもんね。それに僕と繭姉は対外的には恋人関係だし、を上手く説明するつもりなのかもしれない。ここは変に出しゃばらずに夏川さんに任せるのが得策かな)


 一方、高嶺。

(あアん? 放課後だと? わざわざ時間を指定したってことは周りの連中には聞かれたくない話ってことか……) 



(また屋上かよ⁉︎ まさか今度こそ突き落とされるんじゃねえだろうな⁉︎)

 悪い予感ほどよく当たる。

 高嶺は数時間後、


 もちろん物理的にではなく、絶望に、である。

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