第79話
【胃痛】
小森翔太が感じている痛み。
【デジャブ】
既視感。一度経験したような錯覚。
週明けの昼休み。
彼は嫌すぎる板挟みにあっていた。
「小森くん――」「翔ちゃん――」
「「――一緒にお弁当はどう(かしら)?」」
「「はっ?」」
小森翔太が何一つ口にしていないにも拘らず、一瞬で一発触発の出来上がり。
(いや、僕が「はっ?」なんですけど⁉︎)
バチバチと視線の火花を飛ばし合う夏川と高嶺。
小森は既視感を覚えていた。
高嶺繭香が転校してすぐ手作りのお弁当を持参した記憶があったからだ。
しかし、前回と似たような状況でありながら、決定的に違う点が一つ。
高嶺繭香の恋愛感情である。
先日まで小森翔太のことを平凡な
それは彼女にとって屈辱であった。
(まさか私が小森なんかに落とされちまうとはな……ミイラ取りがミイラになるとはこのことだ。自分で自分が情けねえ。だが恋愛感情を抱いちまった以上、ぜってえに小森は渡さねえぞ)
前回の修羅場は言わば
その証拠に、
「田中くんが息をしていません!」
「急いでAEDを! 急いで‼︎」
「佐藤さんも白目を剥いて……!」
「気をしっかり持って! 佐藤さん!」
「戻って来い田中! お前言ってたじゃねえか。放課後、結婚を前提に付き合って欲しいと告白するって」
夏川と高嶺の圧に当てられたクラスメイトの田中と佐藤が生命の危機に立たされていた。
田中に関しては完全なフラグである。
席が離れた彼らたちでさえ意識を失うほどである。
両端に迫られている小森翔太は、
(いやだからなんで今カノと元カノの修羅場みたいになってんの⁉︎ 違うよね? 僕たち全然そういう関係じゃないよね? 何これ⁉︎ 夏川さんは砂川くんの彼女だし、繭姉はストーカーを牽制するための偽装カップル。えっ、もしかして夏川さんと繭姉ってすっごく仲が悪かったりする? もしかして喧嘩するための口実のためだけに僕がかまされている? いらない! そんなパイプ役は決していらない! お願いだから僕を経由しないでやってもらえるかな⁉︎)
自身の立場を上手く理解できていない様子。
これまでぼっちをこじらせてきた彼にとって惚れられているなど微塵も思わない。
「先日の夜は助かったわ小森くん。付き合ってくれてありがとう」と夏川。
先制のジャブを放つ。夜という不要なワードに副声音を読み取った高嶺は、
(な・つ・か・わ〜! てめえ、マジでいい加減にしやがれよ! 電話でお前らが出かけていたってことは割れてんだよ。それを対外的には彼女である私の目の前で言って来やがるか! 挑発も大概にしろよ。いくら宣戦布告したからってやっていいこと悪いことがあるだろうが。下手すりゃ殺傷事件に発展するレベルだからな⁉︎ 何がタチ悪いって私が小森を好きになってしまったせいで、この挑発が腹が煮えたぎるほど不快だってことだよ! 小森の前で本性が出ちまいそうになっちまうじゃねえか!)
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