第41話
高嶺 繭香
かぁっー! マジでビビったぜ。まさか夏川からあんな宣戦布告をされるとはな。
やっべ。まだ鳥肌が立ってやがる。身震いだって治る気配がねえよ。
言語が通じない未確認生物に遭遇しちまった気分だわ。
ぶっちゃけ手を引くか本気で悩んじまったぐれえだ。
だがここでフェードアウトすれば小森を引き渡すことになる。
ストーカー被害に遭っている女を庇うため、我が身を後回しにするような男をだ。
となると私に残された選択肢はキープしかねえわな。
しゃーねえ。夏川もどうやら
夏川と偽装カップルをしていたとはいえ女に免疫もなさそうだし
ったく感謝しろよ?
私みたいなクラス内ヒエラルキートップの女に金と時間を費やしてもらえるんだぞ。
たぶん人生史上最高に幸運なことだからな。
泉 天使
結局私は健吾さんに返信することができなかった。
感情の整理が追い付かなかったからだ。
泣く子も黙るほど泣きじゃくる私に翔太さんは黙って背中をさすってくれた。
公衆の面前で女子高生に泣き喚かれたんだから居心地が悪かったはずだ。
けど彼は逃げ出すこともなく、かと言って自分の価値観を押し付けることもなく寄り添ってくれた。
それがありがたかった。本当に温かかった。感謝してもしきれない。
なんていうかその……私はこれまで恋人以外の異性に走る人の気持ちが理解できなかった。ううん、理解だけじゃない。納得もだ。
けど今日初めてわかった。
女の子が浮気をしてしまうのはいつだって辛いときや悲しいときなんだ。
できれば知りたくなかった現実だけどね。
でもだからこそ負の感情を言い訳に現実から逃げたくない。
次の恋をするなら今の恋をきちんと終わらせてから。
さみしい、辛いからって理由で別の男の子に気を許すのはただの言い訳でしかないと思う。卑怯だ。
それだけは自分で自分が許せない。
もちろん今の私は健吾さんへの想いは揺らいでなくて。
必ず夏川さんから取り戻してみせるつもり。
でもまずは翔太さんにお礼かな。弱っているときに傍にいてくれるのが彼で本当に良かった。
これが本性を隠して寄り添うふりをした男の子だったら……心を許してしまっていたかもしれない。たぶんそうなったら後悔で押し潰されていたんじゃないかな。
翔太さんは私が泣き止んで「大丈夫だから」って言っても全然一人にさせてくれなくて。
「なんか甘いものが食べたい気分かも。でも男一人でスイーツ食べに行くのって恥ずかしいし……一緒に来てくれる人がいればいいんだけど」なんて棒読みでパフェを奢り始めるし。
その後も「えーと、もし良かったら送り届けていいですか。いやあの……一度でいいから女の子を送り届けてみたいなー、なんて」
「キモいですよ」
「ぐふっ」
あえて毒を吐いても落ち込むだけで全然離れてくれなかった。
結局私が自暴自棄にならないよう自宅まで送ってくれた。
もしかしたら傷心した私につけ込んで家に上がるつもりかな、とも思ったんだけど、それも大ハズレ。
私が自宅に着くや否や「あっ、そういえば用事があったんでここで失礼します!」なんて言ってすぐに帰っちゃった。
本気で私のことを心配してくれていただけだった。
たぶん翔太さんの魅力は一緒にいて素の自分でいられること、安心させてもらえることだと思う。
学生のうちはどうしても分かりやすいものに惹かれる女の子が多い。勉強ができるとか運動ができるとか、目に見えることで男子を鑑定しちゃう。
でも彼の良さは一緒にいる時間が長い人ほど分かるんじゃないかと思う。
だから私は翔太さんをカッコ良くしてあげたい。垢抜ける手伝いをしたい。
もちろんありがた迷惑かもしれないけど。
なんて言ってるけど……ははっ。結局私は自分が思っているより傷心しているんだ。
誰かと居たい、一緒にいて欲しいと願ってしまっている。
だから翔太さんをカッコよくしてあげたいなんてのは休日に連れ出す口実でしかない。
本音は無理をしないでちょうどいい距離感でいられる翔太さんといたいだけ。
だから私はお礼も兼ねて一緒に出かけようと思う。ちょうど週末だもんね。
たくさんお買い物して美味しいもの食べてそれからたくさん愚痴を聞いてもらって――。そうだ。相談にも乗ってもらおう。
でもただ誘うんじゃ面白くないし……ちょっとからかってあげようかな。
ふふっ。私のメールを見た翔太さんがどんな反応をするかちょっと楽しみかも。
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