第35話
高嶺 繭香
夏川に言われた通り屋上に足を運ぶ私は早速本題に入ることにした。
こっちは情報不足で混乱してんだ。頼むから私に分かるように説明してくれよ夏川。
「えっと……私をこんな場所に呼び出して一体どういうつもりなのかな?」
「あら、小森くんを射止めたあなたが私の真意に気が付いていないと? 面白くない冗談ね」
んだとゴルァ!
こっちはお前の奇行にさんざん振り回されてんだよ! もしかして挑発してんのか、ああん?
さすがの私も本性が顔を出しそうになったものの、
「賢明な高嶺さんのことだから私の狙いにも気付いていることでしょう。だからこそ最初に謝っておくわ――ごめんなさい」
「はあっ⁉︎」
頭を下げ滝のように黒髪を垂らす夏川。
全く予期していないブッ飛んだ言動にもはや言葉が出ねえ。
だが驚くのはまだ早かったようだ。
彼女は顔を上げるや否や、
「高嶺繭香さん。正式に宣戦布告をさせてもらえるかしら」
「宣戦布告……?」
ちょっ、待て待て待て。私はこれから夏川に何を打ち明けられるんだよ⁉︎ もうこの時点で鳥肌が立ってんだけど⁉︎
「あなたから小森くんを略奪するわ」
「はあああっ⁉︎」
小森を略奪するだぁっ⁉︎ おまっ、自分がどんだけヤベえことを口走ってんのか全く理解してねえだろ⁉︎
いいか? 羨望と嫉妬を一身に集める美少女が「あなたの彼氏を寝取るから」と告げてんだぞ⁉︎ 相手が普通の女ならヒステリーを起こしているとこだからな⁉︎
なにせ夏川ほどの女が相手だ。「取られちゃうかも」って心配になるだろう。つーか勝ち目がないと言ってもいい。
たまたま私が小森に惚れてねえから良かったもののよ。本物の恋人の前でそれを口にしてたらマジで血を見ることになっていたかもしんねえんだぞ……って、まさかそれを見越して屋上なのか⁉︎ そういうことか⁉︎
まだ死にたくない私は慎重に言葉を選ぶことにする。
こちとら小森はただの偽装カップル。悲しみの向こうへと辿り着くつもりはねえんだよ!
「私から翔ちゃんを奪うつもりってこと? ……正気なの?」
「安心して。正気よ」
狂気だよ!
とはいえ冗談じゃねえようだな。
あの真っ直ぐな目は本気で言ってやがる。
略奪なんて言葉を口にしておいて、硝子玉のような瞳をよく向けて来れるな!
「でも夏川さんには彼が……えっと――」
「――大橋健吾のことかしら」
「そう。その大橋くんが彼氏なんでしょう? それなのにどうしてそんな言葉が出てくるのか理解できないんだけど」
私はスカートに忍び込ませた携帯を握り締めながら疑問を口にする。
『110』と入力し発信までに一秒とかからない状態だ。
おいおい。手汗がやばいことになってんじゃねえか。何かもう答えを聞くのがすっげえ怖いんだけど!
「はい? 健吾は彼氏なんかじゃないわよ?」
なんでお前が首を傾げる側なんだよ! もう何が何だか分かんねえよ! 理解出来るヤツがいたら教えてくれ! 切に!
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