第25話
小森 翔太
「突然お誘いして申し訳ございませんでした。私は泉天使です。失礼ですがあなたは?」
「えっと……小森翔太です」
喫茶店に連行された僕は渋々名前を名乗る。
なんとなく彼女の正体が想像できるだけにこの先の展開が憂鬱で仕方ない。
これからどれだけ質問攻めされるのだろう。
「小森翔太さんですか……地味な名前ですね」
「おっと⁉︎ 初対面にも拘わらずいきなりディスられた⁉︎」
「ちょっ、あまり大きい声を出さないでもらえますか田中さん」
「名前すら覚えられていない⁉︎ 記憶が悪いにもほどがある!」
「なっ。それは聞き捨てなりませんね。記憶が悪いんじゃありません。覚える気がないだけです」
「じゃあなぜ名乗らせたし⁉︎」
初対面の女の子から盛大にイジられる僕。なんだこれ。想定外にもほどがある。
感情の整理が追いつかない僕に対して「ぷっ」を笑みを漏らす泉さん。
もしかして目の前の女の子はサディストだったり? だとしたら僕と相性が悪すぎる。
一秒でも早くこの場を後にしなきゃ!
「ふふっ……ごめんなさい。いきなり失礼でしたよね。たぶんテンションがおかしくなっているんだと思います。さっきのでパニックになってますから」
「あっ、ああ……そっか。そうだよね」
「安心してください。普段の私は名前のとおり天使のような存在です。たぶん人のことを悪く言うのは小森さんぐらいです」
「全力でノーサンキューなんだけど⁉︎ というか僕も天使として接していただきたいのですが⁉︎」
「初対面でさっそく女の子を名前呼びですか? 地味ヅラのくせに意外とチャラいんですね」
「これってどういうタイプのイジメ⁉︎ ねぇどういうタイプのイジメ⁉︎ もう帰っていいかな⁉︎」
「えっ、小森さんに帰る場所なんてあるんですか?」
「あるよ‼︎ 全力であるよ! いくらなんでも失礼じゃないかな?」
「キレてるんですか?」
「キレてないよ! 僕をキレさせたら大したもんですよって何を言わせるのさ⁉︎」
「あの……一人で盛り上がっているところ申し訳ないのですがそろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか」
「僕の扱いが雑すぎる!」
ノンストップでツッコミ続ける僕をよそに苦しそうに笑う泉さん。
お腹をかかえ目に涙をためて笑う姿に本気で帰ってやろうかと思った次の瞬間。
「ははっ……小森さんって本当に面白いですね。あそこで会えたのがあなたで良かったです……うっ、うう……ぐすんっ」
笑い泣きはいつの間にか悲しみの雫になっていた。
見知らぬ男(僕)に弱みを見せないようずっと気を張っていたのかもしれない。
泉さんは声を押し殺すように泣いていた。
その光景に胸が締めつけられる僕。
だってさっきまでのボケは全部強がりだってことが分かってしまったわけで。
そして彼女があの修羅場を目撃し、悲しんでいるということはやっぱり僕の予想は当たっていたわけで。
「わたし、わたし……健吾さんに二股されてたんだ……」
目の前の少女は夏川さんの彼氏の彼女さんだった。
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