第14話
小森翔太は下僕。
《氷殺姫》の新たな一面にどよめく教室だが、やがて彼らは納得した様子を見せる。
それはなぜか。小森と夏川のペアリングが疑問だったからである。
夏川雫がなんの取り柄もない小森翔太を好きになるわけがない。
それが桜ノ宮高校の総意だった。
だから違和感を覚えながらもこう結論付けていた。
夏川雫は
しかし彼女の下僕発言でこの説が間違っていたことが発覚した。
夏川雫はドS。それもお嬢様気質の高飛車で社長令嬢のような女であると。
となれば小森翔太が彼女のお眼鏡に適うのも頷ける。
なぜなら彼はごく普通の一般人だが『空気を読む』ことだけは長けていた。
何でも言うことを聞く都合の良い奴隷。夏川はそんな存在を欲していたのだろう。
そう仮定すれば全ての辻褄が合った。小森がなぜ彼女の傍にいられたのか。
ちなみに余談だが、この日を境にして夏川雫に告白する男子生徒は激減した。
彼女の弱い者をイジメ倒すという性癖が露呈した以上(もちろん勘違いなのだが)、ドMしか相手にされないと判断したからだ。
ただし困ったことに同性からの告白が増えたという。しかもその大多数が、
『お姉さま好みに調教してください!』
といったもの。
夏川雫がそれらの告白に戸惑い、疲弊するのはまた別の話である。
さて、下僕発言はさすがの高嶺も予想外だったのか、口をぽかんと開けたまま唖然としていた。
「下僕……そっか……下僕かぁ……」と繰り返すのが精いっぱい。
頭が真っ白になっている様子。
怒涛の展開に誰も整理がつかない中、最も動揺していたのは、
(下僕ってなにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっー⁉︎ いやいやいや待ちなさいよ
ご覧のとおり夏川雫である。
ありえない失言に後悔の念が込み上げているに違いない。
そんな彼女が小森翔太へ視線を向ければ、
「げっ、げげげ……ゲゲゲの下僕」
(あぁっ……! なんか新しい妖怪漫画を呟きながら真っ白に燃えているじゃない! そっ、そりゃそうよね? いきなり下僕なんて宣言されたら誰だってそうなるわ……ええい、ままよ! こうなったら変態でも何でもなってやるわ!)
後戻りはできない。そう決意した夏川雫は堂々と、
「というわけで隣を譲ってもらえるかしら高嶺さん」
「「「「⁉︎」」」」
(マジかよこの
高嶺繭香は現状を俯瞰しながら、
(私は幼馴染つうアドバンテージがある分、『下僕なんて許せない!』的な立場で夏川を無理やり引き剥がすこともできる。多少強引に攻めれば小森と二人きりで昼食を取ることも可能だろう。だが夏川もそう簡単に引く気はねえか。目を見りゃ分かる。となればここは無理やり引っ剥がすよりも――)
――ちらりと小森翔太に目をやる。
(チッ。おめぇはおめぇでさっきから何ボケーっとしてやがんだ。ワケありとはいえ美少女二人から奪い合いをされてんだぞ⁉︎ もっと嬉しそうな顔をしろや! もしくは仲裁だろうが! ほんっとモブだな!)
腹立たしくなったのか。額に血管を浮かび上がらせる高嶺繭香。
どうやら彼女は怒りの矛先を彼に向けることにしたようで――。
(気に食わねえな……うしっ。いっちょからかってやるか)
「翔ちゃんを邪険にするなんて許せない。私、絶対にこの席から離れないから。それにお弁当を作って来たのは夏川さんだけじゃないんだからね」
堂々と言い放った高嶺はこれ見よがしとばかりにお弁当をカバンから取り出してくる。
可愛い風呂敷を外すや否や、
「そんなに一緒に昼食を取りたいならどっちのお弁当が食べたいか、翔ちゃんに味比べして決めてもらおうよ」
「望むところだわ」
(いや望まないでよ夏川さん‼︎ というか僕の同意は⁉︎ むしろそっちを取ることを望んで欲しいだけど!)
「あっ、僕なんかお腹が――」
「「――痛くなってない‼︎」」
命の危機を感じた小森は適当な理由で教室を後にしようとするがそうは問屋が卸さない。
彼の両手は夏川と高嶺に掴まれてしまう。それも後になって手形が残るほど強く。
(お腹の調子を決めるのは二人じゃないと思うんだけど⁉︎)
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