第12話

【修羅場】

 血みどろの激しい戦いや争いの行われる場所。

 小森翔太を取り巻く環境はまさにそれだった。


「高嶺さん。申し訳ないけれど席を外してもらえるかしら。これから小森くんと昼食を取りたいの」

「……それは嫌かな。私だって翔ちゃんと一緒にお昼を取りたいし」


 ――バチバチッ‼︎


 夏川雫と高嶺繭香の視線がぶつかり合い、火花を撒き散らす。

 お昼時間を迎えるや否や、突然漂い出した不穏な空気に教室が凍てつく。

 生徒たちが息を飲むなか、最初に仕掛けたのは夏川雫である。


「幼馴染と一緒にお昼を取りたいという気持ちは分かるわ。でもごめんなさい。彼のお弁当を作って来てしまったのよ」


((((ええええぇぇぇぇっ⁉︎ なんで別れた彼氏の弁当を作ってんの⁉︎))))


 修羅場に巻き込まれた生徒たちは夏川の意味不明な言動に戸惑いを隠せない。

 それはもちろん小森翔太も同様で。


(ええーっ⁉︎ なんで、どうして⁉︎ フェイク中ならまだしも昨日の今日だよ⁉︎ いや、きっと何かワケがあるんだよね? でもさすがにこれは読み切れないよ⁉︎)


 驚きを隠し消えれない小森翔太。

 しかし彼はさらに驚愕することになる。


「えっ? 夏川さんこそどうして別れた彼氏のお弁当を作ってるの? ちょっと意味が分からないんだけど」


((((いきなり核心にいったああああああっ‼︎ 飛ばし過ぎだよ高嶺さん!))))


 破裂しそうな心臓を抑えながら大量の汗をかく生徒たち。


「はっ? それこそなぜ説明しないといけないのかしら。あなた、ただの幼馴染よね?」

 まるで小森翔太の彼女のような態度で言い放つ夏川雫。

『ただの』が異様に強調されていた。


((((言葉に棘を忍ばせきたああああっ! 誰か! 誰か通り抜けフープ持って来て! 聞くに耐えないんだけど!))))


 この時点で意識が途絶えた生徒が二人。

 泡を吐き出しながら白目で気絶。

 もはや教室内の緊張感は覇王色にも匹敵し始めていた。


 そんな状況を好ましくないと感じたのだろう。

 最大の被害者、小森翔太が仲裁に入ろうとすると、

「あの二人とも。ケンカはよくな――」


『「小森くんは黙ってなさい」「翔ちゃんは黙ってて」』

「黙ります」

 

 情けないと思うことなかれ。

 なにせあまりの気迫に彼女たちの背後には青龍と白虎が映し出されていたのだから。

 ちなみに小森翔太の背後には恐怖で打ち震えるハツカネズミが映し出されていた。


 ここで高嶺繭香は切り札ジョーカーを躊躇なく切る。


(チッ……夏川のヤツ。私と同じタイミングで弁当を作って来やがって。鬱陶しいな。だいたいどこの世界に好きでもない男に弁当を作る女がいんだよ。これで小森にべた惚れ確定じゃねえか。いいぜ受けて立ってやる。言っておくが男を落とすことに関しては私は最強だからな?)


「ただの幼馴染、か……。たしかにその通りだよ。でも元カノよりは優先されるんじゃないかな?」

「それはどういう理屈かしら?」

「だって私――翔ちゃんに告白して返事待ちだもん」


((((ぎゃああああああああっ‼︎))))

 小森、夏川を含む教室内の生徒全員が絶叫した。

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