第158話

「……どうして、これが俺の首に」




 ガチャッと音がして、塩辛い風がふうっと入り込んでくる。




 ミオは、顔を上げる。




 真正面にある扉が開いていた。戸口に、水差しを持ちシャツに黒いベスト、そして黒いパンツをはいた男が立っていた。




「ジョシュア様の姿をした天使だなんて。天国って、なんていいところなんだろう」




と呟くと、相手はガラスの水差しを投げ出して、駆け寄ってきた。




「目覚めたんだね。よかったっ!!」




 ミオの寝台に飛び込んできたジョシュアは、こわごわミオの頬を両手で挟んだ。




「君は、十日も眠り続けていたんだよ。よかった。目覚めて、本当によかった」




 ジョシュアは、涙を零す。そして、ミオの胸元で揺れる羅針盤の装飾品に口づけて、はっとしたように身体を離した。




「すまない。僕たちはもうこういう関係ではなかったね」




 そうだ。愛し愛される関係はテーベの街で解消したのだ。しかも、自分から言い出した。




 生きているのも現実なら、酷い言葉で別れを告げたのも現実だ。




 でも、ミオは上手にそれを受け入れられなくて、陳腐な質問をジョシュアにしてしまう。




「俺は……死んだんですよね?」

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