第143話

 やがて、ジョシュアとタンガ、他の男たちが部族間の問題やカナートのことなど難しいことを話し始めた。




 体調の思わしくないミオは、先に休ませてもらうことにした。




 二粒飲んだ滋養剤がやっと効いてきて、一人で歩くことぐらいはできそうだ。




 泊まる部屋に案内してくれるというタンガの子供たちの後を、ミオはゆっくりついていく。




 暫く歩いていると、廊下の向こうをやってくる者がいた。ミオは目を丸くする、砂漠で立ち往生をしていたミオをを助けてくれた青年だった。




「アザン!アザンだっ」と、タンガの子供たちが彼の周りを跳ねまわる。




 アザンが「おおおっ」と声を上げて近寄ってきて、ミオに手を取った。




「あんた、無事だったんだな。イリアの街の入り口で、急に消えちまったからびっくりしたぜ」




「あのときは、ありがとうございました。お蔭で、会いたかった人と会うことができました。俺は、ミオと言います。アザン様、お見知りおきを」




「よせよ、異人さんのくせにかしこまって」




 アザンは横になりたいというミオを、部屋まで案内してくれた。寝室は大きな窓が取られ、夜風で天井から垂らした幕が揺れていた。寝台の傍には花が飾られ、いい匂いが漂っている。部屋の隅に、ミオとジョシュアの荷物が置かれてあった。




 ミオは、どたっと寝台に倒れ込む。




 アザンに頼んで、ランプを付けてもらった。




「砂漠でも大層具合が悪そうだったが、もしかしてまだ、回復していないのか?」




 アザンの声が遠くなりかけ、ミオは自分の頬をつねる。滋養剤を二粒飲んでも効き目一瞬かと、絶望しそうになった。




 意識が飛びそうになって困る。絶対に、ジョシュアにこの肉体のことを気付かせずに別れを告げなければならない。

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