第74話

 行く手に、ラクダの一団が見えてきた。どのラクダも背中に大量の荷物を積み、ゆっくりと歩いている。




 夜中に、オアシスからオアシスを移動しながら旅をしているのだろう。




 追い越そうとすると、先頭のラクダに乗ったミオより少し年上の少年が珍し気な顔をした。ミオの赤い目は月明かりでその色を失う。肌の色から異国の人間と判断したようだ。




「こんばんは。異国の行商人。気を付けて」




「そちらも。お気をつけて」




 風のように挨拶を交わす。十字星号が全力で駆けるので、振り返るとラクダの一団はすでに見えなかった。




 地平線が白み始めた。同じ方向に街が見え始めた。オアシス都市テンガロだ。阿刺伯国には幾つか巨大なオアシスがあり、砂漠の真ん中に都市を形成している。テンガロはその一つで歴史の古い街だ。




「話には聞いていたが、これほど巨大だとは」




 ミオは口を覆っていた布を剥いで、見えてきた都市を見つめた。一旦ターバンを取って砂だらけの髪をほろう。どれほどきつく絞めても細かい砂が入り込んでしまうのだ。口の中もシャリシャリした。




 どの街の手前にも必ずある水飲み場で、十字星号に水を飲ませる。ミオも顔を洗った。




朝の太陽を少し浴びることになるだろうと覚悟していたが、夜が完全に明けきる前にテンガロに着いてしまった。




「お前の足は、対したものだね」




 ミオは、十字星号を褒めながら、手綱を引いて街の中に入って行った。市場で朝ごはんを仕入れ、ついでに情報も集める。


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