第70話
ミオは一瞬、目を瞬かせた。
「……お願いします。タンガ様」
「重ね重ね阿呆だな、お前は。私にしてどうする。主人にするのだ、そう言う顔を」
タンガは、サイティから金属の棒を取り出す。
「お前の主人が、捕まった際に落としていったものだ。これが、何であるかテーベの街の欧羅巴人に片っ端から聞いてみた。
これは、地下の資源を調査する工具だそうだ。欧羅巴では、黒い水を採掘するために『ギシ』という者が使うのだという。彼は貴重な技術を持っているがゆえに殺されなかったとすれば、黒い水の採掘が近々はじまるのかもしれない。
だから、無事会えたら耳元で囁け。黒い水の採掘には黒の部族よりも青の部族が役に立つと。砂漠キツネを探しに向かっている最中でも、ミオサンガー、ミオサンガーとうるさいあの男のことだ。可愛くねだれば、願い事の一つも叶えてくれるだろう」
タンガは、金属の棒をミオに渡すと、地図を広げさせた。
「オアシス都市テンガロを知っているか?この街から、小さなオアシスを幾つか経由して行く」
「行ったことはありませんが、大丈夫だと思います」
「お前の主人の顔を見たのは、ここが最後だ。少し時間が経ってしまったからテンガロを離れてしまったかもしれないが、最終的な行き先は決まっている」
「どこですか?」
タンガが指さしたのは阿刺伯国の北西、もう隣国にほど近い場所、王都だった。
「お前の主人は、なぜか『白の人』の一団と合流した」
「サライエで輿に乗り込むところを見ました。波止場はすごい人で」
「テンガロでもそうだった。輿に幕が下がっていて顔は見えなかったが。輿はテンガロの大富豪の屋敷へ入っていった。お前の主人もその中に。次の街に移動していたとしても、宿泊場所は似たようなところだろう。……っう」
タンガは盛大に顔をしかめた。
「傷口が本格的に痛み出した。私は村に帰るとする。宿はいつ王宮の兵士がやってくるかわからないから、なるべく早く引き払らっ……」
痛みが酷くなってきたのか、タンガはよろめいた。
「支えます。お嫌でなければ」
腕を背中に回させる。
「宿の前にいるラクダのところまででいい。これしきの傷で、青の部族が人の肩を借りたなど笑われてしまう」
タンガは去勢を張るが、一歩足を進めるだけでかなり痛むようで、喉の奥で唸り声を上る。
ミオは、タンガをなんとかラクダの背中に乗せた。
「タンガ様。貴重な情報をありがとうございました。早く矢傷が治りますように」
「礼などいらない。私は、何人か『白』を知ってるが皆、辛酸を舐めてきているせいか恩を売れば律儀に返そうとする。私は悪人だから『白』の性格を利用しようとしているだけだ。主人に可愛い顔でねだることを忘れるな」
タンガは矢傷など追ってないかのような涼しい顔で、ラクダの手綱取りテーベの街を出て行った。
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