第59話
取りつく島もなく、ジョシュアは部屋を出ていっていまう。
いいようにやりこめられた気がした。
悔しいのだけれど、なんだかくすぐったい気持ちもあった。
言われた通り、食事をし、寝台に横たわった。
さすがにもう眠れなくて、何度も寝返りを打つ。
一人は寂しく、せめてジョシュアの使ったものを触りたいと、彼の枕に手を伸ばすと、その下に硬い感触があった。
探ると、出てきたのは革張りの本だ。
宿屋の軒先や、海にも持って来ていた本だった。
きっと異国の言葉が描かれているだろうし、読めやしないだろうと思いつつ、ジョシュアの持ち物だと思うと興味が湧いて、表紙をめくる。
目は、挿絵に釘づけになった。
「何て本を読んでらっしゃるんですか……」
ミオのいる星空旅行社は宿屋も兼ねていて、旅人が本を忘れていったり寄附していったりするのだが、その中に同じような本があってウィマやフィティがゲラゲラ笑いながら挿絵を見ていた。
字が読めなくても、挿絵を見ているだけでなんとなく話の筋がわかるのだ。
ミオは、本のページをめくって、挿絵だけに目を止めていく。
この本は、貧乏な少女が実はお姫様で、城に連れて行かれてレッスンを受けるうちに美女として磨かれて、あまりの美しさにたくさんの王子から求婚されるという話のようだ。
ロマンス小説というものらしい。阿刺伯国ではまずお目にかかれないが、欧羅巴ではたくさん出回っていると聞く。
最後は、寝台で男女が身体を重ねる享楽的なシーンで終わっていた。
「爽やかな見た目からは想像がつきませんでした。こういう欲求がおありなんですね。そうですよね。ジョシュア様は健全な男性ですもの」
ミオは考え込む。
きっと昔愛した人とも、こういう行為を何度も、何度もしたことだろう。
なのに、俺は……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます