第42話
地元の人間と旅行者が、カードゲームに興じていた。異国の旅行者は、小銭まで取り上げられて茫然と席を立った。
「彼、大丈夫かな。助けに行かない?」とジョシュアは二人の間に流れる微妙な雰囲気を振り払うように、ミオを誘う。
帰国用の船の代金まで取られたという旅行者を、肩を叩いて慰めたジョシュアは、
「弟も一緒にいいかな?」
と異様な盛り上がりを見せているテーブル席に寄っていく。
「異人さんなら大歓迎だよ」と地元の男たちはニヤニヤ笑っている。
ミオは、ジョシュアの膝の上に乗せられ背後から抱かれた。
「ジョシュア様。俺、カードゲームなんて」
「シッ。今は兄さん。取りあえず見ていて」
カードが配られゲームが、始まる。ジョシュアが勝ったり負けたりするのを、ミオは腕の中で黙って見ていた。
やがて「異人さん。どこから来なすったんだい?英国かい?」と世間話が始まって、ジョシュアが頷いた。
「弟は砂で目をやられたんだろう。可哀想に。一瞬、サライエにいる『白』が店に入ってきたと思って、果物に手が伸びかけたぜ。サライエの連中も、よくあんな不吉なガキを置いとくよなあ」
笑い声があがった。知らない場所で嫌な目立ち方をしていたことに身体が固くなる。
「『白』で思い出した。新王には『白』の情夫がいるんだってな。男なのに随分べっぴんだって話だ」
「それって実は『白の人』でしたってオチなんじゃないのか?兄と弟で愛をっていうな」
「なわけあるか。『白の人』はきちんと英国に渡って、阿刺伯国の守り神になってくださったんだよ。それに新王の情夫は、目が変わった色をしているだけで肌は俺たちと同じ浅黒い色をしているそうだ。どんな顔をしてるのか、いっぺん拝んでみてえもんだな」
下卑た笑い声が上がる。ジョシュアが机の端を、指先でトントンと叩きながら言った。
「『白』は、そんなに嫌な者なのだろうか?彼が何をしたっていうんだい?」
「そういう風に神が決めたんだからしょうがないじゃないか」
とカードを切る男が肩をすくめていう。
「僕は、そういう神は嫌いだね」
ジョシュアはきつい口調で言った後、「ミオさん。僕の親指がさすカードを選んで」と耳元で囁いた。
左手でカードを持っているジョシュアは、一番右端を親指で示した。ミオはそれを取るとテーブルのカードの山に重ねる。男たちは、カードの数字を見てぼやき声を上げた。
ミオの手元に、紙幣と小銭がやってきた。
「さあ、勝負はここからだ。遠慮なく稼いでおくれよ」
ミオは半信半疑でジョシュアが示すカードを抜き取る。また勝った。
あっという間に五連勝し、稼いだ額は奴隷には眩暈がする額になった。地元の男たちは悔しそうにしている。
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