第41話
「どうしたの?やっぱりさっきの罰が辛かった?」
目元に溜まりかけた涙を親指の拭われ、ミオは首を振った。
「あれでも、かなり抑えているつもりなんだ」とジョシュアはすまなさそうに言う。
「どういう意味ですか?」
「君がどこまで許してくれるのか、知りたかった。じゃないと僕は、どこまでもつき進んで、君に苦しい思いをさせてしまうだろうから」
「ジョシュア様は旅の旦那様なんですから、そんなこと気にされなくてもいいというか、俺なんかに気を使いすぎです」
すると、ジョシュアの手が伸びて来て、頬を軽く摘まれた。
「また、自分を卑下することを言ったね。でも、こんなことをしたら、僕も君の雇い主と同じ、酷い男と思われしまうな」
「そんなこと、ありません。ジョシュア様は、俺がこれまで会った誰よりも優しいです。あの、聞いてもいいですか」
「なんなりと」
ミオは、勇気を出してこれまで疑問に思っていたことを、ジョシュアにぶつけた。
「昨夜、からかいや戯れではないとおっしゃいましたが、だったら何なのでしょうか?」
それまで饒舌だったジョシュアが、一旦口を噤む。
少し間があって、ようやくその口が開かれた。
「ミオさんぐらいの年齢のとき、僕はあまりにも世間知らずで、大切な人を傷つけた。僕が愛だと思って与えたのは思い上がった施しで、大切な人は僕の知らない所で苦しんでいた。愚かな僕は、関係が終わる間際にそのことに気づいた。二度と人を愛で傷つけたくなくて、大切な人と別れてから、僕は真剣に人を愛したことがない。君が、僕の態度をからかいや戯れと感じてしまうのはそのせいかな」
ミオに力強く迫ってくるのは元々の性格で、気遣いがすぎるのは過去の恋愛で傷つきながら学んだ証拠、ということか。そして、恋愛の傷はまだ完全には癒えていないようだ。
何か言いたいのだが、たくさんの人間に拒ばまれてきたミオに、その手のことは全く分からない。
会話は、ぷつんと途絶えてしまった。しばらく沈黙が続く。
背後で大きな歓声があがり、気まずい雰囲気の救世主が表れたとばかりに、ミオもジョシュアも振り返った。
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