第64話 ストリーカー

 デュミナスとニコルを抱いた真人が水柱を砕いて飛び出す。

 やっと真人を捉えられた綾香がデータを仲間たちと共有する。真人の背にはまるで翼のようなエネルギー体が展開されていた。

 肩の後ろから翼のように展開されたビームスラストから、まるで結晶のように次々と飛翔するエネルギー体が生み出されている。光片は真人の周りを独自に飛び回り、更に大きなグリッドを形成していた。


「あれは……翼なの?」


「ちょっと待って、解析する」


 ユーシンの右目が機械の輝きを帯び、何種類もの超深度センサーを駆使して真人たちから情報を収集する。

 ――結果はすぐ出た。

 結果は即座に黒いサロゲートたちへ転送する。


「真人の背中にある小さな光翼はは疑似質量フィールドの投射システムのようね。

 投射されてるのは遠隔操作の誘導エネルギー体……おそらくパワーキャスターの一種。

 展開のさせ方次第でフィールド推進システムや、ディフレクタースクリーンを組み上げることもできるみたい。

 速度は――真人と同じ!

 アクセラレーターもディスアクセラレーターも当然効く」


 エネルギー体は一定のパターンで並び、真人の周囲に不可視の力場を形成しているらしい。現在はフィールド推進システムに加え、ディフレクタースクリーンとしても構成されており、デュミナスのディフレクターとも合わせて森里とトゥイーの攻撃を弾き返したようだ。


「真人くんと同じ速度……

 なら、私はもう間に合わないですね」


 綾香が肩をすくめる。

 レーザーショットがチリチリと陽炎のようなオーラを放っている。

 ディスチャージだ。

 今から再チャージしても間に合わないので、両手を挙げて戦線離脱を宣言する。

 同じくディスチャージした森里もその場にペタンと座り込んだ。

 ノンビリと真人の軌跡を眺める。


「同じくガス欠です。

 ルールでは真人ちゃんがセカイを移動しない限り補給はできませんから、僕も戦線離脱しますね」


 そこへキュリオスが割り込んだ。


「――なるほど、パワーキャスターを遠隔展開してるのか。

 ワールドリジェネレーションシステム持ちのサブシステムでも取り込みやがったか?

 展開位置も自由に変えられるから、自律して飛んでるように見えるわけだ。

 しかもパワーキャスター自体がディフレクタースクリーンとフィールド推進システムを形成している……ってことは、不味いな」


「何か問題でも?」


 真人たちを見つめていたマーキスがボソッとつぶやく。

 その口調は楽しげだ。

 反対にキュリオスが珍しく困惑の表情を浮かべる。


「色々あるが――飛行能力が一番不味い。

 これで真人の弱点が消えた。

 パワーキャスターの遠隔展開も地味に痛い。

 コンフィグレーション次第ではピンポイントで防御力を上げられるし、加速・反加速能力を上げることもできる。

 今まで考えてた対真人戦略が全部パーだ」


 苦虫を噛み潰したようなキュリオスを無視するかのように、真人たちはジグザグに飛びながらセカイの端まで到達した。

 そこで羽毛のように静かに着地する。

 あそこから真人が出て行けば、このセカイでのゲームは終わりになる。


「だがまあ……ボーッと見送るわけにもいかんか。

 真人たちはまだセカイから出てない。

 追うぞ、飛べるのは先行してくれ。残りは――泳げ!

 さもなければ、ここから支援砲撃だ」


 キュリオスが宣言する。

 言い方が可笑しかったのか、トゥイーが笑いながらバードフォームへ変形した。同じく笑いながら浮かび上がった綾香と共に、真人たち目がけて飛び出す。


              *


「デュミナス、変なとこを触ってご免!」


 真人は反加速をあてて超音速を一気にゼロにすると、デュミナスとニコルをセカイ間移動用のターボリフト入口前にふわりと降ろす。もちろん二人のスカートをひるがえさせるような無様なことはしない。真人の守りは鉄壁だ。

 二人を降ろした真人はもう一度空中に浮かび治した。

 その背から輝く飛翔体が生み出され、真人の周囲にヘックスグリッドを形成していく。


「お気にせずに、真人。

 それより《ドロープニール》は無事に機能しているようですね?

 《ストリーカー》も問題なく稼働しています」


 真人をモニターし、サポートを行っていたデュミナスが満足そうに頷く。

 聞き慣れない言葉に真人が首をかしげた。


「ドロープニール? ストリーカー?」


「真人の両肩の後ろにあるパワーキャスターの遠隔展開システムが《ドロープニール》、そこで作られた小さな羽根のようなパワーキャスターがストリークオービット、略して《ストリーカー》です。

 ともにマルチロールに使えるユーティリティーです。

 名前は今、私が付けました。

 元は真人が中学生のころ考えていたゲームの設定から取りましたが」


「ああ、あれか……って、デュミナスーっ、い、いつ記憶みたのー!?」


 真っ赤になりながら叫ぶ真人に、さっきの島から攻撃が来る。

 だが、その攻撃は全てストリーカーで形成したディフレクタースクリーンが弾き返した。ストリーカーは真人の周囲を縦横無尽に飛び回り、より複雑にグリッドを描く。エネルギーを使い切ればそのうち消えていくが補充されるスピードの方が圧倒的に早い。


「ニコルちゃん、先にターボリフトの中へ!

 デュミナス、ニコルちゃんの案内をお願い。

 僕は、ここで時間を稼ぐ!」


 真人はあらためて自分の身体と周囲の状況を確認した。

 エネルギーはフルチャージ、故障箇所なし、新装備あり、そして守るべき人と、強敵。

 ――自分が身体を張る場面だった。

 もちろんデモシーンなんてない、すべて自分の操作だ。


「真人……!」


 リフトに走り寄ったニコルが真人に警告をあげる。

 ターボリフトが自分から動いていた。

 誰かが乗っているのだ。

 真人が溜息をつくと、口の端を歪める。


「世の中、そんなに甘くはないか。

 デュミナス、ニコルちゃんを……」


 新手のことは全く考えて無かった真人が身体を開き、前後を警戒する。

 そのまま、ゆっくりと扉が開く。

 開いた扉からは――


「あ、真人!」


「やっぱり無事だったんですね」


 リフト内から外部スピーカー越しに懐かしい声が響き、真人が警戒を瞬時に解いた。

 数体の巨大な人型が滑るように動き、外に出る。

 白い機体と黒い機体が一体づつ、それに薄い黄色の機体が何体か。


「その声……シェリオと、ハーミット?」


 白と黒の機体の前面ハッチが小さく開き、中から見慣れた顔が覗く。

 二人の乗る黒と白の人型機械はおそらくキティとガランサスなのだろうが、大きさやデザインは大幅に変わっていた。

 サイズは前のより一回り大きい。

 外装や装備もずっと高い技術で作られているようだ。

 二体と一緒にいる薄い黄色に塗装されたタイプは、新生キティとガランサスより若干小さいサイズで、マーキングされたナンバー以外の外観や装備は全て統一されている。

 おそらくキティやガランサスを元にした量産タイプなんだろう。


「はい、やっと真人さんを見つけました!

 それとそちらのお二人も、こっちらへ来て下さい。

 ――ああ、私たちはアイビストライフという組織のメンバーで、真人さんの仲間ですからご安心下さい。

 貴方たちを保護いたします」


 三人を保護しようとするハーミットを制止し、シェリオが叫ぶ。


「待って、センサーに反応があるよ!」


 真人も気づいたらしく、振り返って上を見る。

 空中には黒い点が在った。

 ジェットフォームの綾香とバードフォームのトゥイー、それにキュリオスだ。


「シェリオ、ハーミット、みんな、この二人を守って。

 こっちはニコル、カナンリンクで生まれた子供なんだ。

 僕の右手についているのがアピオン、そして――デュミナスだよ!」


 アイビストライフの間でどよめきが広がる。

 デュミナスが応えるようにほほ笑む。

 だが感動の再会を演じる時間はない。

 巨大な人型機械たちは、真人の言葉を受けてニコルとデュミナスを守る位置に即座に動いた。


「みんな、迎撃態勢!」

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