路地

 雨上がりの朝、いつもより早起きしたあなたはすこしだけゆっくりと街路を歩いていく。


 そして、気まぐれで小さな路地に入り込む。


 その路地には、小さいが手入れの行き届いた庭を持つ赤い三角屋根の家があり、ガーデンテーブルにいっぴきの黒猫が寝そべっている。その瞳は夏の夜空のように青く澄んでいる。ああ、なんと美しい世界だろうか。自分の家の近くにこんな素敵な世界があることを知らずに生活してきたなんて。とあなたは思う。


 これからは早起きをして、もっと歩いたことのない路地を歩いてみることにしようかなと考えながら、あなたはその路地を抜けていく。


 でも、早起きしたのはその朝だけ。


 結局、本とメモに埋もれた黴臭い私室での夜更かしは健康な睡眠を阻害し、目覚まし時計が鳴ってもあなたはずっと寝台のなか。


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