夢のメモ

 会議室で会議をしている。

 退屈な会議だ。


 配布された膨大な資料には意味のわからない言葉が羅列されていて、一体何のことなのか、まるで理解できない。


 長々と喋り続ける司会役。

 その顔に見覚えはない。


 よくよく見渡せば、会議に参加している面々の顔に見覚えのあるのは一人もいない。


 これはどうしたことか。


 そこで気がつく。

 これは夢だ。


 先刻から聞こえるこの重低音は、現実世界の音だ。隣室の冷蔵庫の音だろう。それから、微かに感じるこの眩しさは、現実に朝日が瞼に当たっているせいだろう。


 僕はもう目覚めつつある。

 半覚醒状態なのだ。


 そうだ。考えてみれば、僕はまだ学生なのだから、こんな仰々しい会議なんかに出席するはずがないじゃないか。


 僕は目の前に山積みにされている会議資料を見つめながら、ひそかに微笑した。もうすぐこの退屈な夢は覚めるだろう。


 ――そのときだった。僕の隣に座っていた灰色の背広姿の男が、そのまた隣の男に耳打ちするのが聞こえた。


「こいつ、ここが夢だってことに気づいたんじゃないのか」


 敵意と不快感を滲ませた声。押し殺してはいたが、いやにはっきりと僕の耳に届いた。


「自分の夢だと気づいたに違いない」


 その声は漣のように会議室のなかを流れていくのだった。僕はおそろしくなった。早く夢が覚めればいいのにと思った。会議室のなかを漂う視線が、だんだんと僕に集まってくるのを感じる。


「ですから26階の間接照明の性能については何ら問題なく……」司会役が喋っている。「多段型書架の八角口径に薔薇式の因数分解を要請すれば……湖底探査権は容易に瓦解しますから、地点Fにおける観測対象はそのとき……紡錘形の有給休暇を冷却する必要はないのであって……」


 いやな夢だ。今にも覚めそうなのに、しかし、なかなか覚めてくれない。





「あいつが目覚める前に」


 ふと、どこからともなく声がした。


「殺してしまおうよ」


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