第14話

 それからというもの、聖也はティリスと別行動を取る日に大林先輩に捕まり、いたぶられる日々が続いた。


 ティリスや潤、雪菜達といる時は平然としているが、身体にはいくつものアザが隠れている。


 そのアザに一番早く気付いたのは潤だった。


 ちょうど体育の授業の時、隠れて着替える聖也をチラッと見たら、酷いアザが見えたのだ。


 これまではティリスと着替えていたのだが、このアザだらけの身体をティリスに見られる訳にはいかない。


 だから、普通にクラスメイトの男子と着替えていたのだ。


「おい聖也。お前、このアザはどうした?」


「………何でもない」


 教える訳にはいかない聖也は、苦虫を噛み締めた顔で答える。


「何でもない訳ないだろ!!」


 隠そうとする聖也に苛立ち、潤は怒鳴るように問いただそうとする。


「何でもねぇんだよ!!放っておいてくれ!!!」


「っ!?」


 いつも温厚な聖也からだとは思えない怒声に、潤も怯んでしまう。


 周りには仲の良い2人がケンカしていると、遠目で見ているクラスメイトもいる。


「…………悪い。大丈夫だから、本当に放っておいて」


 聖也はそう言い残すと、足早にその場を立ち去った。


「……………何があったんだよ」


 本当のことを教えてくれない幼馴染に、潤は苛立ちを覚えた。


 体育の授業は普段通りに行っていた。


 その際にも潤は聖也のことを気にして見ていた。


 パッと見て、動きはいつも通りなのだが、時折苦痛に耐えるような顔をしていた。


「…………大丈夫じゃねぇよな」


 体育はそのまま問題なく終わった。


 昼休みになり、いつものメンバーでお昼を食べにいく途中、潤はこっそりと嬉しそうに弁当を運ぶティリスに小声で声を掛ける。


 昼食を食べ終わり、聖也の相手を雪菜に任せ、潤はティリスを連れ出した。


「ジュンさん、私にお話って何ですか?」


「聖也のことで聞きたいことがあってな」


 潤は先程体育の時間に見た聖也のアザのことについて、ティリスに聞いた。


「えっ!?セイヤさん怪我してるんですか!?」


「その様子だと、ティリスちゃんは知らないのか」


「はい。初めて知りました。最近は一緒にお風呂も入っていないので」


「………………羨ましすぎるだろ」


 ティリスのような美少女とお風呂に入るなんて、男として羨ましすぎる状況だった。


「後で治してあげないと」


「何か言ったか?」


「あ、いいえ、何でもありません」


 魔法でアザを治してあげようと考えて、つい呟いてしまったティリスだった。


「それじゃあティリスちゃんも、分からないってことか」


「そうですね。家でアザが出来るようなことはしていませんし」


「となると、俺達があいつの側にいない時に何かあったっていうことか」


 しかし、ここまでわかっても、それ以上情報がなく、何も分からなかった。


「……………これ以上は分からないから、そろそろ戻るか」


「そう……ですね」


 なんとも言えない空気になり、2人は聖也と雪菜がいる場所へ戻っていった。



 ☆     ☆     ☆



 放課後となり、帰り道で潤はティリスと話したことを雪菜にも教えた。


「聖也が怪我してたなんて」


「だけど、どうして怪我したのか教えて貰えなかった」


「うーん。でも聖也って基本的に良い奴だから、恨まれることって少ないよね」


「だな。だからこそ余計に分からないんだよ」


「でもティリスなら何とかしてくれるんじゃない?」


「ああ。俺達も協力した方がいいかもしれないけど」


「しょうがないよ。今日はあたし達予定あるんだし」


 この場には潤と雪菜の2人しかいない。聖也とティリスとは学校で別れていた。


「何もなきゃいいが」


「だね」


 2人は聖也とティリスの心配をしながら帰路に付いた。



 ☆     ☆     ☆



(セイヤさんとはいつも一緒にいます。いる時には怪我をすることはしていません。とするならば、私と別行動している時しかありません。それは私がクラスメイトと遊びに行く時しかないです。それならば)


 ティリスはクラスメイトと遊びに行く振りをして、聖也の後を追っていた。


 聖也は荷物をまとめた後、普通に廊下を歩き、そのまま校門へ向かい歩いていってしまう。


(学校で怪我をした訳ではないのですね)


 ティリスはそう考え、聖也の後を追おうとするが、突然誰かに腕を掴まれた。


「きゃっ!?なっなに?」


「こっち来い」


 後ろを振り向くと数人の男子生徒がいた。そして、校舎の脇の人気の無い場所へ連れて来られてしまう。


「あ、あなた達は確か………」


「俺達のこと覚えてくれてんだな」


 男子生徒達はいつかティリスに告白してきた人達だったため、ティリスは見覚えがあった。


「何か用でしょうか?私はセイヤさんを追わなければならないので、用がなければ失礼させて頂きますが」


 ティリスは毅然きぜんと立っているが、1人で複数の男子生徒に囲まれ、内心恐怖を感じていた。


 本当は今にも逃げたしたいが、囲まれているため出来ない。それに例え逃げたとしても、身体能力的にすぐに追い付かれてしまう。


「そんなつれないこと言うなよ。俺は告白するぐらいお前ことが好きなんだからよ」


「その告白はお断りしたはずですが」


「そうだったな。そのお陰で俺様の箔に傷が付いたけどな」


 男子生徒の1人、大林先輩はイケメンの顔を歪ませ、ティリスを壁際に追い込む。


「何もしてねぇのに何泣きそうになってんだよ」


「泣いてなんかいません」


 ティリスは気持ちでは負けないように、涙目になりながらも、大林先輩を睨み返す。


「そんな顔で言っても説得力ないっての」


 大林先輩はそう言いながら、ティリスの夏服となったブラウスの胸元に手を掛け無理矢理引っ張った。


「ひぅっ」


 ティリスの胸元のボタンが弾け飛び、胸元が見えてしまう。少しだが、下着も覗き見える。


「はっ!良い反応するじゃねぇか。よしお前ら、撮影タイムだ」


 その言葉に周りにいた男子生徒はスマホをティリスに向け、カシャカシャと写真を撮り始めた。ティリスは胸元を手で隠し、撮影されるがままになってしまう。


「い、いったい何をして」


 彼らが何をしているのかは、聖也に教えられたことがあるので分かる。


 分かるからこそ、何をしたいのかが分からなかった。


「そんなもん決まってんだろ。こうやってお前の恥ずかしい写真を撮って、新枝の野郎を脅す材料にすんだよ」


「セイヤさんを?」


 大林先輩の言葉に疑問を持つティリス。


「ああ。あいつはお前とイチャつきやがるムカつか野郎だからな。殴るとかなりストレス発散になるんだわ。それにお前はこれから気持ちいいことをすんだからよ」


「……………………」


 ティリスはその言葉の意味を理解していた。


 かつて、自分のいた世界で男に襲われそうになった時、同じ様なことを言っていたからだ。


 その時は魔法で難を逃れたが、今ここで魔法を使う訳にはいかない。


 何故なら聖也と魔法は人を助けるために使うと、約束をしたからだ。


「ほら。スカートも捲れ」


「い、いやっ!!」


 大林先輩はティリスのスカートを掴み、捲り上げようとする。


 ティリスは抵抗するが、男と女の腕力では勝てる筈がなく、ティリスはスカートを捲られながら、尻餅を着いてしまう。


「もう制服も下着も剥ぎ取ってやるか」


「いやっ!!いやっ!!!」


 ティリスは必死に抵抗するが、太刀打ちが出来ない。


 そして、数人の男子生徒がティリスの手足を抑え込み、大林先輩の手が脱げ掛けた制服に手が掛かった時。


「いやあぁぁぁぁぁ!!!!!」


「ぐあっ!!」「ぐおっ!?」「ぐはっ!?」


 ティリスに向けていたスマホが爆発し、ティリス中心に暴風が吹き荒れた。


 暴風はティリスを掴んでいた男子生徒を切り刻み、幾つもの傷を負わせていた。


 周りで写真を撮っていた生徒も、スマホの爆発と暴風で吹き飛ばされ、痛みで苦しみ倒れていった。


 一番傷を負ったのは大林先輩だ。


 大林先輩はティリスの目の前にいたため、暴風の発生源に近かった。


 そのため、大林先輩の制服は腹を中心に切り刻まれ、裂傷は全身に渡っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ…………」


 ティリスは自分の身体を抑え、荒く息をしていた。


 制服は脱がされそうになったものの、胸元のボタンが飛ばされ、自分で放った暴風により、部分的に切れていただけで済んでいた。


 傷もなく無事なのだが、自分が何をしてしまったのか未だに理解出来ず、混乱していた。


 そこに騒ぎを聞き付けた下校していない生徒がやって来た。


 10人以上の男子生徒が傷を負い倒れている姿を見て大騒ぎになる。


 そして、その中心には服が乱れたティリスがいた。


 何が起こったか分からない生徒達は、遠巻きに様子を見ていたが、1人の男子生徒がティリスの方へ近付いて行った。


「ティリス、これは何があったの?」


「はぁ、はぁ、はぁ………セイヤ、さん」


 それは新枝 聖也だった。


 聖也は普通に帰っていたが、虫の知らせ的な何かを感じ取り、学校に戻って来たのだ。


「セ、セイヤさん………わたし」


「これってティリスがやったの?」


 聖也は確認するためにもう一度ティリスに尋ねた。


「わ、わたしは…………」


 ティリスはゆっくりと見回し、何をしてしまったのか次第に理解し始める。


「もしかして魔ほ」


「違うんですっ!!!」


「ぐっ!!」


 ティリスが叫ぶと、聖也が突然吹き飛ばされた。


 ズザァァァという音と共に聖也は倒れてしまう。


「あ………あ……………あ……………」


 ティリスは今自分が何をしてしまったのか理解すると、自分に恐怖し震えだした。


「ごめ…………ごめんなさ……………………っ」


 ティリスはこの場所に居続けることが苦痛になってしまい、突然走り出した。


「ティ、ティリス…………いたたた」


 聖也は汚れを払いながら立ち上がる。


 そして周囲を見渡して見ると、ティリスが何をしたのかということで、話が持ちきりになって更に騒ぎになっていた。


 ティリスと聖也が許嫁ということは、学校では有名だ。


 だから、人を軽く吹き飛ばしたティリスの婚約者である聖也も、危険な人物ではないかと言われ始めた。


「探しに行かなきゃな」


 聖也はそんなことよりティリスの方が心配だった。


 倒れている男子生徒は、ティリスに振られたからと言って、最近聖也を苛めて来た生徒だ。


 そんな生徒達とティリスが同じ場所にいて、こんな状況になっていることを考えると、ある程度予想は出来た。


 聖也はティリスの後を追うために、そこから走り出した。


 そして、ティリスに吹き飛ばされた男子生徒は先生や保険委員がやって来て、治療することになり、何人かの生徒は病院に送られることになった。

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