こどものひみつ、大人の秘密
広瀬寿子という作家とその作品に出会ったのはいまからたぶん10年ほどまえのことでした。
『風になった忍者』という物語に出てくる少年たちのいきいきとした姿に、そうして作品自体に漂うどことないさびしさに、これはとても好みの世界を描くひとだ! とおもい、それから広瀬寿子のなまえを図書館でさがすようになりました。
地元の図書館には『まぼろしの忍者』、『そして、カエルはとぶ!』というような作品がいくつかあって、でも奥付の作者紹介を見るにどうもこの作家はそんなに年に何冊も量産されるかたではないけども児童文学者としてのキャリアがだいぶ長くていらしゃるのでたくさんご著書があるらしい、でも古いせいかものがみつからないとやきもきしてたときにたまたま九州のある大学に通うこととなり、それがきっかけでその県にあるおおきな図書館にもいくようになり、そんで児童書コーナーにいったらば未読の廣瀬作品がたくさんあって喜びいさんだ次第です。
『小さなジュンのすてきな友だち』とか、『風のむこうの小さな家』とか、たくさんの作品を読みました。ちなみにわたし、広瀬寿子先生の書かれた作品で単行本が出ているものは絶版もふくめてぜんぶ読んでるはずです。
このかたの作品に漂う理知的な雰囲気も、登場人物たちのどこかにあるよるべなさも、それでいてひとを信じるための心はきちんとあるようなところも、ほんとうにすきです。
贔屓目を抜きにしてもあまりおなまえを頻繁に聞く作家さんではないような気がしますが、マイフェイバリット日本児童文学者トップ3にはいるとおもう。中澤晶子さん、三田村信行さんなどがほかにはおりますがそれはともかく。
で、前置きが長くなりましたがとにかくわたしはこのかたの描かれるものがとてもすきでみなさん読まれたらいいとおもっていて読まれるためには作品が売れるのが一番でだからつまりそのための糸口をご紹介できたらいいなとおもうのですよね。
で、当ページのテイストはあんな感じですよね。なにとは申しあげませんがあのとおりですよね。
ということでおわかりでしょう、いまからお伝えしたいのはそういうことです。
縷々と語ってきました広瀬寿子作品の特徴のうちまだご説明していないこと、それは殿方同士の仲が親密ということであります。
広瀬先生についてあまり詳細なプロフィールを見たことないんですけど1937年におうまれということなので昨今流行りのポイントにわざとストライク投げてらっしゃるわけではないのかなと勝手ながら推察したりもするんですけど、いやしかしときどきほんとうに広瀬先生そこらへんのBLそこのけの作品を書かれるのですよね。
びっくりするよね。
という前ふりとともに、それではご紹介いたします。
『秘密のゴンズイクラブ』。
発行は2011年なので本屋さんにも図書館にもまずまず現役であるんではないでしょうか。
児童文学です。
ちゃんとしたオーソドックスなみんなだいすき少年のひと夏の物語です。
『ふたりのイーダ』、『十一月の扉』、『霧のむこうのふしぎな町』、はたまた『トムは真夜中の庭で』、『クローディアのひみつ』、そうした名作の系譜の日本平成部門に置いてしかるべき作品です。
……主人公の僕のおとうさんとそのともだちにさえ注目しなければ。
しなければ……。
ということであらすじをば。
小学生のトールは父の仕事の都合により、夏休みのあいだ父の友人のもとに預けられることになる。
やってきたのは霧の立ちこめる古い城下町。そこで出会ったキツネ、小ブネと名乗るふしぎな少年たち。トールは彼らのつくる秘密結社「ゴンズイクラブ」のメンバーとなる。やがて、町に高速道路ができるという計画が聞こえてきて…。
というような。
このトールくんも秘密結社のみなさんもいきいきとしてかわいいのですが今回はおいておきます。
問題はさきほども申しあげたとおり、トール父とその友人宮野さんです。
まず物語の発端からですね、もうまずそこからなんですけど、いやほんとそういう目で見たら1ページにひとつつっこみどころがあるんじゃないかってくらいなんですけどとりあえず順を追って話すとしましょうか。
トールくんちは父ひとり子ひとりであり、仕事で家をあけることの多い父は撮影旅行にあたっていつもならお姉さんを頼るのですがそのお姉さん、トールくんにとっては伯母さんが外国にいくことになったので父は息子の預け先をさがしていたとのこと。そして父がむかし暮らした城下町にいまも住む宮野さんに白羽の矢が立ったと。とはいえこの宮野さんとトール父、25年間会ってなくて連絡もしてなくてなのにいきなりおさない息子を預けるし預かるというふしぎさ。
そして件のトール父、フリーの写真家でわりとイケメンでガキ大将がそのままおとなになったようなひと。たぶんどんなとこでも生活できるアクティブさをお持ちだしだいたいのことはなんとかなるしなんとかするタイプだし仕事や自分のことにかまけて基本家族やまわりをかえりみないように見えるのに意外と気遣いわすれないなんていうこにくらしい男前。言っちゃえば旦那力すごい低いけど彼氏力すごい高いというアレです。
対する宮野さんといえば小柄でおとなしくて眼鏡で独身で料理できなくてごはんなんか小学生のトールくんにつくってもらってよろこぶし風邪ひいてはトールくんに看病してもらったりするような手のかかるひとだしなのに考古学研究所勤務のインテリ。5年まえに失踪したおじいさんの残した古い日本家屋にひとりでひっそりと住んでいる。
…しょうじき広瀬先生なんでそんな設定にしちゃったのっておもいましたよね。
ほんとにね。
まぼろしの忍者とか風になった忍者とかもうすうすそんな匂いしてたけどここまでドストライクくるとむしろ爽快でしたよね。
少年のひと夏の冒険譚として読むもよし、おとなふたりの秘密の物語として読むもよし、ちなみに申しあげますと挿絵はサッカー選手を女子的目線できゃーきゃーいうことで定評のあるスポーツ雑誌にてよくお見かけするイラストレーターのかたですのでそれぞれの登場人物の描写はアニメ風でもなくかといって写実にすぎるわけでもなくとても…とてもいい塩梅です…こんなとこまでぬかりない。編集者のかたの差し金をうたがっていいですかありがとうございます、とてもありがとうございます…。
その手の雰囲気をかもしだす児童文学っていくつかありますがここまでサブストーリーが気になる作品はわたしいままで散見したなかにございませんでした。そして計算してみるに広瀬先生がこれを書かれたのは推定70代の頃なのでいや決めつけはよくないけども狙ったあざとさとかたぶんないんじゃなかろうかというはずなのになんでこんなことにといっそ困惑している…。狙わないからこその直球て受け取り手にはきついですよね。養殖に慣れてた舌は天然ものの到来にびっくりしちゃいますよね。しかもキャリアン十年の筆力で。とかいろいろひっくるめて物語にノックアウトされてみるのはいかがでしょうか。わたしこの作品のなかに描かれるおとなたちの物語、たとえば草間さかえの漫画にあってもおかしくないとおもってる。
そして願わくば、広瀬寿子先生の文業がもっと世に知らしめられますように。
たとえば『秘密のゴンズイクラブ』と同時期に発表された『うさぎの庭』は、自分のきもちをうまく話せずともだちはうさぎのチイコだけという少年が古い洋館に住むおばあさんと出会ったことですこしずつ変わっていくというもので、わたしは、読んだあとこれはとてもだいじな作品だなあとおもいました。
ということで、よろしければどうぞお読みに。
そしてよかったらわたしと語りあってください。
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