第296話 最強は同盟の運営に尽力す⑨
雪継に釘を刺して、クラッシャーについての対策会議が終わろうとする中。不意に何故あそこで河瀬の過去が持ち出されたのか気になった。
帰る面々を見送った後、リビングでコーヒーを嗜む先生を捕まえ聞いてみる。
「先生、なんで河瀬の名前をあそこで出したの?」
「ん? 何のこと?」
ボケ? それとも、仕事しすぎて壮年痴ほう症?
「いや、そんな目で見られても……あぁ、クラッシャーにリアルでやられて訴えない理由のこと?」
「そう」
「河瀬も彼女に
「は? 聞いてない」
その情報は知らない。知ってたら……引きこもり気味の私には何もできないけど、ネットとかで調べまくってどうにか取り返せる方法を模索できたかもしれないのに。
「オフ会で、河瀬が酔っ払ってポロッとね。しかも聞いたの年末だから。河瀬の中では時効なんだと思う」
「そう」
本人がそれでいいならいいけど、正直気分が悪い。河瀬どうしてもっと早くに言わなかったのか。ムカムカする。あー、こういう時はボス狩りしたい。
今更ながらに腹が立った私は、徐にボスタイムの時間を調べ始めた。
『ren、良い素材は回して欲しいのである』
『私、トレラ初めて討伐するわいね』
『博士、素材は研究費から買って』
『どうして、トレラなのかしら?]
『突発すぎだろ。どうしてこうなった?』
イライラして探したボスだけど、残ってるボスがトレラしかなかったから諦めて欲しい。
私のストレス発散に強制連行されたクラメン&ロゼ、千桜――白影、雪継は、同盟ハントに行っていて居なかった――には申し訳ないけれど、頑張って討伐しようと思う。
『まぁ、ロゼ落ち着けって、トレラの討伐方法わかるんだから良い事だと思おう?』
『つか、なんで回復に声かけないのren!』
『良い事なのか? 俺、巻き込まれてるだけじゃね?』
『チカ、頑張れ』
ウダウダと愚痴るロゼを先生が言い含め、黙らせる。誘ったのが攻撃職なのはチカに悪いと思う。だけど、私に回復の知り合いがいないから仕方ない。
一段階目のトレラは良くしゃべり、良く走った。感想として言うなら、相変わらず気持ち悪いおっさんだ。
二段階目は、白、聖劉、ロゼが水晶が湧いた時点で即割りして、削り切る。 皆の反応の速さが怖い。
最終段階では、春日丸が日頃の恨みを晴らすがごとく頑張った。自分で買っといて恨みもくそも無いと思うけど……。
そうして懐かしささえ込み上げるトレラは、春日丸――職なのか武器の短刀なのかは不明――奥義・
他のメンバーたちも頑張ってはいたと、記憶しておく。
『春日丸の奥義すげー』
『美しいでござる。拙者も是非覚えたいところ』
『あぁ、宗之助も覚えられる』
『武器スキルでござるか? それとも、職でござるか?』
宗之助は大興奮状態で春日丸と話す。
二人の会話の内容から春日丸の奥義・十六夜ノ閃は、スキル発動後片手の短刀で同対象を絶えず十五回斬り付けダメージ蓄積。十六回目で蓄積されたダメージが閃光と共に対象を襲うものらしい。
このスキルで気になる点と言えば、使用中に別のスキルは挟めるのかとどれぐらいのダメージで有効とされるのかだ。ただ当てるだけでいいのであればかなり有用だが、クリティカルヒット並みの当てるだった場合正直使えない。
大興奮している宗之助には言えないけれど、春日丸の奥義は忍びが忍んでない感じがする。実際見る方としては、凄くカッコイイスキルではあるし言わない限り気付かれないから暗殺者のスキルとしてはいいのだろう。
それに宗之助やミツルギさんが覚えたら、トーナメント・チーム戦が楽になりそうだ。逆に個人の方であたるとかなり面倒そうでもある。
トレラのドロップ品のオークションが終わり、解散する。
今回は残念なことにサモン・リットはドロップしていなかった。二次被害を防げたとも言える。
私としては少しだけ、欲しい気持ちになっていた。以前はいらないと切り捨てていたけれど、皆が着々とサモンを持つ中未だ自分だけが持っていないのは寂しい。
『トレラって、週一討伐だったよな?』
『確か……そうだよ』
『クランでやるか、収入になるし』
『うちもやりたいわいね』
今回小春ちゃんを誘おうと声をかけてみたが、製作依頼が集中しているらしく参加できないととても残念がっていたのを思い出す。
『やるなら小春ちゃんのところも誘ってあげて?』
『トレラやる位なら、生産してた方が小春は儲かるんじゃないか?』
先生の言う通りトレラのドロップは正直しょぼい。生産か討伐かで言えば生産した方がお金になる位に。けど、一度でも討伐経験があれば、行きたいと思った時に野良にも入りやすくなるはずだから、連れて行ってあげて欲しい。
『先生の言う通りだけど、野良も経験者募集とかあるし、一度でも経験しとけば二丁目だけでもいけるだろうから』
『なるほどな。確かに未経験よりは経験済みの方がいいよな』
『わかるわいね』
『ってことで、よろしく』
『お前は誘わねーのかよ』とロゼから突っ込まれたが、うちはトレラは正直微妙。今回は私の腹いせ目的だったから行っただけだ。それを言うと怒られるので適当な返事でロゼを躱した。
逃げるようにリビングを後にした私は、小春ちゃんの元へ向かう。
実はトレラの討伐前に、小春ちゃんから少し素材集めを手伝って欲しいと言われていたのだ。
二丁目の露店とハウスは、新しく出来た街ヘパイストスにある。
小春ちゃん的には、本当は縫製と竈を司るヘスティアにハウスや露店を置きたかったらしい。けど城下町であるヘスティアは新しいのをいいことにクランハウスの価格が城下町ではないヘパイストスに比べ三倍値であり、ハウスの広さは半分以下だったとか。せめて露店だけでもと思い、調べたら露店は小さく狭かったそうで、諦めてヘパイストスにしたと言う。
「こんばんわ。小春ちゃんは?」
「あ、こんばんわ~。ようこそいらっしゃいましたー。マスターお呼びしますね」
チワワみたいな犬耳をしたメイド服のプレイヤーさんが、接客慣れした対応で小春ちゃんを呼びに行ってくれる。
戻ったプレイヤーに「申し訳ありません。今大事なところらしいのでしばらくお待ちください」と言われ頭を下げられた。時間の指定はしていなかったし、待つのは構わないので「大丈夫」と返す。
そう時間がかからず来るだろうと思いつつ、時間つぶしに二丁目の露店を見てまわる。
ここで売ってる物は、武器防具、ポーション系と街着。
うちと被るのはポーション系だけど、こちらは初級、中級、高級、最上級、濃縮とお値段もそこそこするけど品ぞろえも良い。
武器防具は、色々手を出してるらしくフルプレートからローブ、杖から片手剣、大盾まで全種を取り揃えている。
メインターゲットは三次職なのだろう。僅かにしかない一次、二次用の防具に比べて、かなり広いスペースを三次用が占めていた。
「お待たせ~ん。ごめんなさいね~ん。急に持ち込みで軽鎧の籠手作る事になっちゃって~ん」
「別に、問題ないよ。それでどれぐらい狩るの? メンバーはどうする?」
「そうね~ん。できればうちの子を何人か連れて行きたいけど、あんまり多いと火力がね~ん。とりあえず、回復と拳の二人にするわ~ん」
「わかった。じゃぁ残りは、メンバーから誘うね」
小春ちゃんと人数をすり合わせ暇そうなクラメンにクラチャではなく密談で声をかける。
小春ちゃんは先生と同じ、大鎚を使うので先生は却下。他二人が回復と拳なので魔法職からさゆたん……は、既に落ちていたのを忘れていた。うーん、仕方ないからゼンさんにしよう。キヨシよりは良いだろう。で、二人目は黒か大和だけど、黒は狩り中だから大和で。
他に必要なのは……まぁATKだから誰でもいいかとティタと聖劉を誘えば全員が即座に快諾。
PT編成はうちから、大和、ティタ、聖劉、ゼンさん、私。小春ちゃん、Julyさん、ミーモさんの八人だ。
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