第295話 最強は同盟の運営に尽力す⑧

 河瀬と聞いて思い出すのは、まだ彼が今の会社に就職する前――大学生でゲームにどっぷりと嵌っていた頃だ。

 当時の河瀬は、彼女は愚か初恋もまだと言ううぶな少年――私よりははるかに年上だったんだけど――だった。そんな河瀬にゲーム内で彼女――出会い方とかは知らないし、どうやって付き合う事になったのかも不明――ができる。


 クランを抜けて彼女の所属するクランへ移籍した河瀬は、最初こそ幸せそうでティタや白に良く羨ましいと言われていた。

 だが、ある日を境に河瀬が笑わなくなる。

 引きこもり気味になった河瀬をリアルで捕まえたキヅナが、理由を問いただす。


 キヅナに吹っ飛ばされた河瀬が、ラーメンを食べながら語った内容はこうだ。


「付き合っていると思っていた彼女が、最近自分を避けるようになった。欲しい物があると一緒に狩りに行こうと誘ってくれる。なのにクランハウスに戻ると無視される。どうしたらいいのか分からない。別れたいならハッキリ言えばいいのに、それも無い」


 キヅナから話を聞いた私は、その当時彼女が河瀬を利用しているようにしか思えなかった。河瀬の気持ちに踏ん切りがついているのであれば、別れろの一言で済む。けれど、まだその踏ん切りがついていない状態で、外野の私たちが口を出すのは憚られた。

 だけど、クラメンたちは元仲間の憂いを晴らすため動いた――。


「あの時は、調べるの苦労したよなー」


 確かに苦労した。彼女の所属していたクランを一から全て調べ上げた宗之助と白、聖劉に感謝したい。


「あー、あの女いろんな意味で凄かったわよね~」

「十五股はないわw」


 河瀬の彼女は、本当に色々と凄まじかった。直接対応したのは、ロゼ、先生だったけど……私は後ろで、見てただけ。


 大したことのない相手でも、自分に貢物――経験値や狩りに、ドロップ品――をくれるならとにかく「すごぉ~い。素敵ですね~。カッコイイ」などと連発して持ち上げる。

 だが、不要になったもしくは自分に貢がない相手には、口が悪い事で有名な黒ですら引いてしまうぐらい辛辣な言葉を吐いていた。


「河ちゃんみたいなうぶな子ばっかり狙ってたから、尻尾がつかめなかったのよね~ん」

「実際、自分が詐欺にあったって言うのを訴えるのはかなり勇気と根気が必要だし、バレたくないって言う理由もあるから大変だったよな」


 彼女のターゲットは、年端も行かない学生ばかり。その上、友達が少なそうな気が弱いと言うか、自己主張が少ない草食系がターゲットだった。

 彼女のことについて頑なに口を割らない被害者が話してくれたきっかけは、ティタと大和の癒しだ。そこに、空気を読まないキヨシも含まれていたが、何故かそれが上手く作用した。


「ま、でも、最終的には運営にBANされたから、良かったわいね」

「証拠と証言のSS揃えるのには苦労したけどな!」


 証拠は、残ったクラメンたちが頑張った。掲示板を使って、色んな人から上がる情報を精査しつつ証拠を探した。

 協力者はプレイヤーでSSを送ってくれた人もいれば、揉めている現場を録画していたものをくれた人もいた。これについては、感謝しかない。


 懐かしそうな顔で何度も頷く周囲を見ながら、何の話をしていたっけか? と首を傾げる私。

 えぇーと……。確か、クラッシャーが湧いたんだ! それで、その対策をどうするかの話をしていた気がする。


「それで、クラッシャーの対策はどうするの?」

「あー、どうしたらいいと思う?」

「うーん。入って来る前にできることってなんだ?」


 私の問いに雪継とロゼが、質問で返す。

 いや、こっちが聞いてるんだけど……と言うツッコミは置いといて。

 本当にどうにかする気があるのなら、これ以上クランに人を増やさなければ良いと思う。けど、SGもアースも同盟を抜ける時、結構な人数が流出しているため今は人が欲しいところだろう。ならどうするべきか……。


「うちみたいにしたら?」

「BFみたいにか……。それだと余計な奴は排除されるだろうけど、その分入って来る人数も限られるよな」


 宮ネェの案は、うち流だった。ロゼとしては、クランメンバーの友人・知人の紹介だけと言うのは心もとないらしい。

 白影も微妙な顔で頷いているから、この案は却下だろう。


「ならいっそ、この問題が解決するまで募集をやめたらどうだ?」

「それは無理だよー。城主クランの人数が二十人いないって言うのはきつい」


 先生の代案は、雪継によって却下された。

 千桜はヒガキさんの紅茶オレを美味しそうに飲んでいる。

 それでいいのか副マス!


「募集して人は増やしたいけど、クラッシャーは嫌って言うんなら……そうね~ん。加入させる前に面接して、人となりを見るのはどお~ん?」

「あぁ、ありだな」

「ありだわいね」

「うーん。俺、ログイン時間短いし……面接に時間とられるのはやだ」

「俺も仕事柄、時間がな……」


 小春ちゃんの提案は、至極真っ当でとてもいい案に思えた。

 即答で在りだと言った白影と千桜が、己のマスターの意見を聞いて顔を曇らせる。

 

 正直に言って、めんどくさい。


「まずクラマス以外に、加入権限を与えない。知り合いだろうと友人だろうと面接は必須。開催は、二人の都合のいい日を前もって伝える。毎日する必要はないから、週一もしくは隔週一って感じにすればいい。気を付ける相手は女アバターで顔も見た目も良くて、いい娘そうなプレイヤー。そうすれば、負担はすくないよね?」


 私の提案に思案顔をロゼと雪継が見せる。

 まぁ、これ以上どうにかしてくれと言われた所で出来ないから、考えること自体を諦めて欲しい。

 と言ったところでまだ考えてる様子のロゼの顔を見て、雪継を見る。

 そう言えば、雪継のクラメンの事で話があった。


「あぁ、そうだった。雪継! ちょっと話がある」

「ん? 何?」

「えっと、アースに私が敵対として認識してる元・春風のさより、マキ、ベルクーバが加入してるようだけど……知ってて入れた?」

「春風って……」


 考え込む雪継の代わりに、思い出したらしい白影がポンと手を打ち「春風って、あぁ! 一時期善悪の三十層付近で通行税取ったり、払わない奴には無差別PKしてたクランか」と言う。

 正解とばかりに頷き、理解したらしい雪継の表情を見て話を進める。


「そう。あいつらは、私が譲歩したのに謝っても来なかったし、逆に煽られた。もう、許すつもりもないから、見つけたらどんな状況だろうと殺すよ。前回の攻城戦では、雪継に言う時間がなかったら見逃したけど、次はない」


 春風と言うクランは善悪が出来てしばらくした頃、突然当時最高階層だった三十層を自分たちのものだと言い出し、三十層の転移陣を占拠した。常に十人以上で転移陣を見張り、飛んできた一般プレイヤーをPKするぞと脅し、通行税を取るようになった。


 一度転移する毎に100kとか馬鹿らしい上に、PKで負ける気も無かった私は一度も払ったことはない。

 払わないと直ぐに殺しに来るから返り討ちにする。応戦しなければしないで、逃げたとか、ゴミの癖にと全茶で煽られる。

 その結果、奴らは私がどこにいても粘着PKを仕掛けるようになっていた。半年ぐらいだけだったけど……。


「あー、えっと本人たちに確認して、それが事実なら脱退してもらう」

「わかった」


 雪継が、真面目な顔で「約束する」と付け足した。

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