第273話 最強は城主を目指す㉖

 【 竜鱗の褒章袋から 魔法書・インソリータレント(炎) を獲得しました。 】


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 名前:魔法書・インソリータレント(炎)

 適応職:オムニスエンシェントドラゴンルーラー

 適応レベル:10(四次職)

 ※ オムニスエンシェントドラゴンルーラー専属の教官

   の元へ行き覚えて下さい。

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「きっ、きたぁぁぁぁ!」

 奇声と共に両手を振り上げ勝利者のポーズを取るわたし。


 唖然とした顔でこちらを見るメンバーたち他をスルーして、何度も何度もアイテムを確認した。

 ちまちまと開け続けること四十分、残り十二個となったところで待望の四次職用魔法書をゲットした。嬉しさのあまり周りの空気をガン無視したのは仕方ない。


(ロゼ) 新手の可能性があるぞ、後方確認しろ!

(千桜) 後方、私も行くわいね。

(白影) おう。任せろ

[[大次郎先生] ちょっとren。空気読んで空気]

(黒龍) 何が来たんだ? 敵か?

[[聖劉] おぉ~ついに、何かいいものでたの~?]

(雪継) え? どっち?

(宮様) ごめんなさいね。うちの子が、どうぞ気にしないで続けて?


 突如上がった私の奇声に、周囲が慌ただしくなる。そんな中、私の行動を理解していたらしい先生が焦ったように注意を飛ばし、宮ネェがどこかのバーのままよろしく片手を頬に当て愛想笑いを浮かべて話題を逸らす。

 二人の流石うちの副マス――サポーターだ。主に私のだけど……。


 攻城戦中バフ以外やることなくて始めた褒章の袋明けだったが、流石に空気読まなすぎだな、と反省した私は同盟チャットで「ごめん、気のせい」と流す形で謝罪する。

 私の行動理由を知った前衛組からは、遠慮なくジト目を向けられた。けど、クラチャが見えない白影、ロゼ、雪継たちは騙し通せた。


 あぁ、早く魔法を覚えてしまいたい。そう気が逸り始めた私はハイテンションになりがちな自分を諫め、攻略中の城の状況へと思考を切り替える。眼に見える分だけで言えば、漸く中央棟を抜けて二階へ続く回廊へと差し掛かろうと言うところ。同盟の被害的には、三割程度が現在死に戻り中と。


[[ティタ] ここ狭いから、やりにくいいぃぃ]

[[キヨシ] うへぇ、敵が見えないー!!]

[[宮様] ちょっと、ベルゼ頭邪魔よっ!]

[[さゆたん] ぬあー、(身長を)最小設定にしたのミスったでしゅ!]

[[白聖] あー、やる事ねー]


 狭い通路を進むクラメンたちの不平不満が、其処彼処からクラチャに流れ込む。私もバフじゃなければ、この場を離れて魔法を覚えに行けるのに……と、今更なことを悪びれもせず考えてしまうのが人間と言うもので出た魔法書はいますぐ早く覚えたい。そして、すぐさま試したくなるのがゲーマーとしての醍醐味である。


『うーん。まだ時間かかりそう?』

『まぁ、まだしばらくはこの状態じゃないか?』

『……そう。じゃぁ、魔法覚えに――『ren、仕事は仕事。ここにいてね?』――くっ、わかってる』


 逸る気持ちを抑えきれずに零れた言葉は、見事に看破した先生によって遮られた。無念。

 それはそうと、このままでは攻城戦の終了時間ギリギリで王座の間に入れるかどうかだろう。ならば、ここは出来る限り戦力を温存しつつ何かいい案はないかと思案する。


「我の英知の結晶その三であーる!」


 意気揚々とPOTを取り出した博士は、側にいたチカとキヨシに即座に両腕を掴まれる。まるで重罪人だと言わんばかりの扱いにくすりと笑いながらチャットを見れば、同盟チャットで各々がイラつきを露わにしていた。


(白聖) 博士!! 余計なことするなら……後でラボぶっ壊す。

(宗之助) 今すぐ息の根止めるのもありでござる

(村雨) 博士、今は止めておけ。みんな気が立ってる

(ロゼ) 宗之助、俺も一緒に行くわ

(黒龍) 俺も加勢するぞ


 イラつく皆の意見は、予告もなく使うからだ。まずは説明をすればいいのに、博士と言う人間は思考=行動と言った具合に頭と体の動きが直結している。それ故、皆に危険物扱いされてしまう。

 と、そんな事よりもまずは、この通路を抜けなければ……。私がイリュージョンを使うのもありだろうけど、王座の間、続きの間とこの後控える事を考慮するとなるとここで使うのは時期早々だろうなどと巡らせては却下していた私の耳に博士の声が聞こえ、ハッと顔をあげる。

 そうだ! 博士のミリまでポーション? ミリだけポーション? まぁ、どっちでもいい。それともう一つ以前博士が放り投げた雷系のPOTを交互に上手く使いまわせば、上手くこの通路を抜けれるのではないか?

 

「博士、さっきの英知の結晶いくつある?」

「六個である」

「ちなみに、その英知の結晶三の範囲は?」

「450Mである」

「名前からすると、一撃性は無さそうだけど……どういう攻撃性なの?」

「流石、我のパトロ……renであるな! このPOTは、まだ使っていないのであるが名前からして、雷系の鎖である」

「前に、ボスで使った奴?」

「違うのである。アレを作ろうとして、これが出来たのである」


 説明がいまいちわからない。仕方なく博士の手の中にあるPOTを鑑定した。


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 品名 : チェーンサンダーポーション

 製作者 : シュタイン

 効果内容 : ポーション瓶を投げつける事でサンダーの鎖を

       出現させダメージを与える。

 効果時間 : 5分

 効果範囲 : 半径450M

 対象 : 投げつけられたモンスターまたは、敵対プレイヤーの

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 鑑定してもよくわからないオチ……。しかも、対象が敵対とモンスターの可能性有って何?

 完全に限られるのであれば、こちらに被害はないだろうけど。同盟に被害が及ぶのであれば問題になってしまう。だが一度使ってみなければどこまでに被害が及ぶかわからない。さて、どうしよう。このままでは時間が足りない。かと言って、ここで初使用のポーションを使うのもどうかと考えた所で、最終的に、味方犠牲にしてもよね、と結論付けた。


(千桜) なんでか、寒気がするわいね

(大和) ぶるっときたぁー

(大次郎先生) いやな予感がする

(ren) 黒、大和、白影、宮ネェ、チカ以外は一時下がって

    博士、POT使って、指示は出す。

(ティタ) あぁ、やっぱりwww

(聖劉) そうなったーww

(黒龍) 何する気だ? こえー

(雪継) えっと、これ指揮チャで言えばいいの?

(ren) きりきり動いて、殺すよ?


 私の周囲から人がさっと引き、雪継が指揮チャを飛ばす。宮ネェ、チカ、黒、大和、白影以外のプレイヤーが通路から一階の広間へと戻り、博士と共に奥へと進んだ。

 痛そうな黒たちには、少し我慢して貰って説明を始める。


 私の考えた作戦はこうだ。まずは、盾三枚――黒、大和、白影で道を塞ぐ。この時三人には、盾を全面に出しガード――一次盾職のスキル。動けなくなる代わりに盾でダメージを防ぐ。使用回数、制限などはない――を使って貰う。

 そして、私のカウント0で博士がミリまでポーションを投げる。このポーションは時限式なので、ポーションのカウント2でバリアを張ってもらう。同じタイミングで、博士にはチェーンサンダーのPOTも投げて貰う。

 ミリまでポーションでミリまで削って、後はこのポーションで始末してしまおうと考えた。

 

(ren) と言う訳で、死にたくなかったら前にはでないで

     宮ネェ、博士、タイミングミスらないでね?

(黒龍) 俺らが痛いだけか……

(白影) 生きような、大和、黒

(宮様) 任せなさい

(シュタイン) まかせるであーる!

(大和) うん。生きようねー。生きて帰ろうね~。

     真ん中黒で、サイドを僕と白影でいいかな?


 引き攣った表情を見せる盾三人の同盟チャットにクラチャで皆がイキロと励ましている。そんなに嫌なのかと、突っ込みたくなるも、ここを乗り切り雪継さえ生きてればそれでいいという訳でスルーする。ぶっちゃけ私個人としては、さっさと終わらせて魔法を覚えたい。

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