第263話 最強は城主を目指す⑰
城外門を潜り抜け、直ぐに右へ曲がり走り抜ける。上からも狙われやすい位置にある中央門前では、城壁側に身を隠すように先行していたクラメンたちが待機していた。
『おまた~』
『悪い待たせた。上からの攻撃うぜーな』
『殺すか? あの人数ならサクッと終わるだろ』
『ダメよ~。敢えてスルーしましょう~。奴らが自殺しなきゃ戻れない状態にするのが楽しんだから~』
ポスポスと音を上げ着弾する魔法を鬱陶しそうに見た黒が、これまためんどくさそうに見上げて言う。すると白が、殺す選択肢をあげた。だがそれに否を唱えた宮ネェが、悪女の如く麗しい笑顔で毒を吐く。
『あぁ、ならいい方法ありゅでしゅよ』
『お? 何々?』
『冷凍すればいいでしゅ』
『それなら、ダウンマジック入れる』
アースと二丁目が東の門へ着くまでまだしばらく時間がかかるだろうと踏んだクラメンたちが、戯れを思いついたかのように悪どい笑みを浮かべている。それに混じる私もきっと同じ顔をしていただろう。
暇つぶし的に始まったゲームに、遠距離職が一斉に城門上で未だ魔法を放ってくる敵に対し攻撃をしかけた。
私の使うダウンマジックは、今回のアップデートで追加された魔法の一種で三次職の魔法職なら誰でも使えるデバフだ。
初期効果は、二十秒間相手の魔法防御力を半減させるというもので、ダメージはない。スキル強化すれば時間と低下される割合が増える。
ある程度固まった頃、雪継と小雪ちゃんから東の内城門着いたと言う報告があがり遊びが中断される。それでも半分ほどは凍らせたので満足した。
(大次郎先生) 各門準備いいか?
(ロゼ) 西いける
(雪継) 東大丈夫
(黒龍) いつでもいいぜ
『「ここからが正念場だ、全員指揮チャ見るように! 気合い入れろよ? 中にいる敵を全部倒そうと思うな。隙間が出来た瞬間入り込むことを優先しろ! 攻撃開始!」』
『おう』と言う、声が其処彼処からあがり内城門への攻撃を始めた。
前回通り強化してないのであれば、そう時間は掛からずに開くはずなのでここは遊ばず黙って見守る。
時折、外城門の方へ偵察に行く宗之助たち遊撃に個別バフを配り、門の破壊具合を確認。それ以外は、東西に別れたSGとアース・二丁目へバフを配りに走った。
突然、忙しくなった気分だ。しかも走り回るせいで、MPの回復が追いつかない。最終的にはバフを配る→走る→MPPOTがぶ飲み→バフを配る→走るの繰り返しで、お腹がたぷたぷどころが吐き気がっ!!
(ロゼ) 西開通、攻撃に入る
(黒龍) 中央開いた。
(小春ちゃん) 東開いたわ~ん。
『「全門攻撃開始、抜ける事だけ考えろ」』
(白影) ren、個別手前の奴だけでも配ってくれ!
(ren) ……え? いるの?
(白影) え? くれないの?
クラメンならまだしも、同盟相手に態々個別のバフまで入れるなんてことするわけがない。ただでさえ、MPの遣り繰りに四苦八苦しているところなのに馬鹿なの? と言いたい。凄く、叫びたい。
(大次郎先生) 自分のとこのクラメンで個別はバフ回して。
renのMP二割切ってるから……
いざって時にイリュージョン使えないの困る。
(白影) エー! マジカヨー
(白聖) マジだ。つーか何でもかんでもうちに頼んな!
走り込んだ私の顔色を見た先生が苦笑いを浮かべる。白もまた先生同様、同盟チャで庇ってくれた。ありがたい。
流石に一人で四クランのバフを回すのはしんどいので助かった。
開いた内城門を見る限り、事前の読みはあっていたらしい。
シス帝は三重――各列が六人の計十八人――に近接ATKを配置していた。後ろの方に数人の回復職が見えることから約三PTを各門に配備して、ここと王座の間で時間を稼ぎ城主を死守したいのだろう。
だが、甘い。うちの戦力がこの程度に押し負けるわけがない。
盾である黒、大和が先頭に立ち、二人の両サイドを重ATKである村雨とティタ、先生と源次が塞ぎ。その後ろからは、二セル攻撃が可能な鉄男と槍を持ったヒガキさんが陣取る。
更に後ろから、遠距離である白、聖劉、キヨシ、さゆたん、博士が、ティタのターゲットマーカーに標準を合わせ攻撃を繰り出している。
回復である宮ネェとチカは壁に張り付き、攻撃は食らわないが回復が出来る状態を保っていた。
タゲを合わせ回復量よりも多いダメージを与えるクラメンたちは、確実に目の前の敵を一人ずつ屠っていく。
相手の回復の顔色が悪くなるよりも早く、一人また一人と倒れ屍が折り重なる。
遅刻した日の話し合いで、内城門全てを破ると決めた。その理由は、門内にいる敵を惹きつけるためだった。実際その通りに今出来ているのでここまでは順調と言っていい。
遊撃の報告を待ちながら、この城の城主になる予定のロゼの姿を探す。
(宗之助) フィス以外のフラグベース破壊したでござるよ!
宗之助の報告を聞いて、先生に目配せを送る。
『「合図したらSGの半分と二丁目、アースの三分の一は中央門に移動。できるだけ気取られるなよ」』
中央門の敵を半分ほどの人数を削り、予定通り先生が指示を飛ばす。
五分もしない内に続々と中央門に移動してきた同盟の人たちが、最後の敵を倒したのを確認した。
探していたロゼの姿を見つけた私は、黒、大和、ロゼとPTを組む。
(大次郎先生) 気をつけて、楽しんで~
(ロゼ) 行って来る
(黒龍) まー護衛は任せろ
ひとまず、ここへいるメンバーたちにバフを追加。
出来上がった道を黒、大和、ロゼと共に直ぐに見破られるだろうが、トランスパレンシーを入れて四人で先行する。
散歩に行くような気軽さで、門を潜った大和を先頭に、ロゼを守る形で突入した。
『ここからが勝負だな。相手が先生たちを本体だと思ってくれりゃ、俺らの事はバレ難いはずだ。出来る限り時間かけて、倒すとは言ってたけど……どうなることやら』
『こっちは二階テラスから潜入して、続きの間に降りたらイリュージョン。そこで先生たちが合流するんだよね? 生きれるといいな~』
『ま、一番タゲ貰うからって盾二枚の護衛ってのも面白いけどな。シス帝が、どこまで反応するかによるけど、なんとかなるだろ』
黒、大和、ロゼが会話を交わしながら今後の動きを確認していた。誰もいない廊下の様子から、私の読み通りにシス帝が動いてくれるらしいと感謝を覚える。
この作戦? は、先生の発案だ。
攻城戦に慣れているクランほど人数が多い=本体――クラマスが居るものだと勘違いしやすいらしい。
実際、一番守られるはずのマスター二人が盾二人を護衛に四人で、王座の間を目指すなんて馬鹿な事を考えるのは、先生ぐらいだし。それに賛同する私たちが非常識でしかないのかもしれない。
その勘違いを今回は利用させてもらう。
先生たちが大人数で、東西の内城門を内と外から挟み撃ちにして制圧するその間に、私たちは別行動でテラス側へ移動。
テラスから続きの間へと降りたところで私と黒、大和が姿を見せて――トランスパレンシーが効いていればとつくが――突入、少なからず動揺はしてくれるであろう相手にイリュージョンを使って一気に殲滅。
上手くいけばそのままロゼが城主になると言う寸法だ。一か八かのカケに近いが、なんとかなると信じたい。
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