第262話 最強は城主を目指す⑯
外城門を同盟の面々が取り囲んでいる。次々上がる魔法のエフェクトは、激しさを増し、三十センチ以上はあろうかと言う丸みを帯びた両開きの外城門へ亀裂を走らせその形を変えさせていく。
(千桜) 門上、敵だわいね。
千桜の知らせに門を確認すれば、4PT――三十二人ほどの敵が二十メートルほどある城外門の左右に陣取り、弓や魔法を打ち込んでいた。
ここから見える限り、彼らが狙っているのは門を攻撃している近接や盾のようだ。
(春日丸) この前と同じ場所にフラグベース。黒星、暁の園。
『「弓職、城門上の魔法職狙って打ち込め!」』
(風牙) 潰しに行くか?
(大次郎先生) 今はまだいい。こっちが城主になってから潰そう。
(ロゼ) 後ろに回復多くて、弓だけじゃ削り切れないぞ。
(大次郎先生) うちとアースの魔法職回す。
『「BF・アースの魔法職は、城門上の敵排除に回れ」』
流れる同盟チャットを見ながら、バフの更新をかける。その間に、先生が指揮チャで指示を出す。
バフが終われば、バッファーである私がすることはない。それこそ背後から敵が挟み撃ちして来るとかあれば面白いところだが、それもないため非常に暇で時間を持て余していた。
『団体になるとこう言うのがあるからつまらない。はぁ~』
杖を弄ぶ私の独り言をかき消す雄たけびを上げたキヨシが水のエフェクトを上げながら「死にさらせやぁぁぁ」と強気――映画とかでよく見るチンピラのようなセリフを叫び、魔法をぶっ放す。
それを羨望の眼差しで眺めながら、暇つぶしに今後の相手の動きを予想を立てる。
フィスタルトのシス帝が今回は指揮を執っている事はまず、間違いないだろう。城外門の上にいる敵の動きは一定で、攻撃しては、後ろに下がりと言う繰り返しだ。攻撃を受けている黒や源次、ベルゼのHPを見る限り、範囲攻撃しかしていない。
これはあくまでも私なりの経験則だが、攻城戦において前衛が居ない状態での範囲攻撃ほどMPの無駄遣いはないと考える。今回のような邪魔をするだけの場合、デバフもしくは単体攻撃をすべきだ。
門上のアレは、時間稼ぎ。本体は、内城門内で待機中。そして、この時間稼ぎの意味は……うちのフラグベース捜索のためでだろう。
ま、そうそうフラグベースの場所はバレないだろうけど、一応注意は促しておいた方がいい。どこに目や耳があるか判らないわけだし。
内城門が開くまでは、フラグベースへの移動も禁止すべきだ。
周囲の様子を観察しながらクラチャで、先生へ考えた事を伝える。
そのついでに、宗之助たち遊撃へ、相手の遊撃部隊が居ないか探してくれとお願いしておいた。先生に確認とったら好きにしていいと言っていたので、輪を乱すこともないだろう。
『「内城門破るまでは、死に戻り街へ。フラグベースに飛んだ人は、そのままべース内待機。中の職人は、外に出るなよ」』
先生の指揮チャが飛び、宗之助達が散開してする。それについて行きたいところだが、バフを担う私が動くわけもいかず。
腹いせ紛れに、ブレスオブアローを城門上の魔法士へと打ち込んでみた。
成人男性の足ほどの大きさの青白い炎の矢が、弧を描き城外門上の敵へシュパッと言う音を立てて当たる。その数秒後、魔法を受けたその人が倒れた。
その姿に、予想外な私は『はっ?』と声を漏らす。
『ぶっ、あはははははは。renちゃん、流石でしゅ』
『ちょ、はっ? ren、その杖を我に見せるである!』
一連の流れを見ていたらしいさゆたんが大いに笑い。博士が、私へ詰め寄る。そんなに近づかなくても……。引き気味に状態を後ろへ逸らし、指のない手袋を嵌めた手が博士から延びる。
別に見せたくないわけじゃない。でも『……な、なんか嫌だ』だった。思わず出た言葉に、口を押えるがもう遅い。私の言葉を聞いた博士は、その場でピシッと硬直したかと思うと頭を抱え全力で『はぁぁぁぁ? ren、酷いのである。我が何をしたと言うのだぁ~』と叫ぶ。
振り向く同盟の人たちを他所に、私と博士のやり取りに隠すこともせず肩を揺らすクラメンたち。そんなクラメンの中でいち早く復活した白が『博士、さっきのクラチャを思い出せ!』と、博士の胸倉をつかむ。
そこで、ハッとした博士が『……もしや、
そんな私たちの様子に一切の動揺を見せない同盟の人たちは、ある意味で達観していると言える。
(宗之助) ある意味で死にそうでござる。
報告、クラン、セイバーが単身外城門に向かっているでござる。
(白影) 外城門開くぞ!
宗之助の報告と白影の声で、漸く全体が動き出す。
『「セイバーは、殿担当で殲滅。盾と重ATKは回復を守りつつ城門内に入れ」』
(大和)城外門上の敵はどうする?
(大次郎先生) そいつらは放置でいい。
死に戻りさせればそれだけ、王座の間が埋まる。
『「侵入後、西門をSG。東門をアースと二丁目。正面をBF。それぞれ配置につき次第、一斉に内城門攻撃始めるから突っ走るなよ」』
先生が指示を出し終えたところで、宗之助の報告通りセイバーが二十人ほどで私たちを突破しようと突っ込んでくる姿が見えた。
残り十メートルと少しの距離になっても速度を緩めつもりないセイバーに、後方待機を命じられていた暗殺者、弓職、魔法士たちが一斉に攻撃を放つ。
先陣をかけているはずの黒、大和、白影が、攻撃を放つATKたちを守るように間に入り、レンジヘイトを打ち込み相手のタゲを逸らす。
(白聖) 攻撃は、ターゲットマーカーに合わせろ!
『「他は、盾、重ATKが回復守りながら城内侵入」』
(黒龍) タゲ任せろ。遠慮なく叩き潰せ。
(大和) 右は僕が持つよ
(白影)じゃ、左は俺が持つわ
緊迫する戦場の様子に、私の胸が躍った。ターゲットマーカーに合わせ、動く近接と一緒になって攻撃しようと二刀を構え前に出る。私が到達するより早く、一人目が沈められ次へとマーカーが移る。
一太刀だけでも浴びせたい私はそれに向かって走る。だが、私が到達するより早く、次も、その次も沈んで……最後の一人になりやっとの思いで刀を振るう事ができた。
(黒龍) 終った。内城門向かう。
(大次郎先生) お疲れ、了解。
セイバーたちの死体を前に、黒が一声発し背を向ける。そんな黒に皆が続く、その姿がやけにカッコよく見えた――。
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