第260話 最強は城主を目指す⑭
あれから、一週間。その間にトーナメント戦で快勝したり、ドラパレに行ったり、ドラパレにいったり、同盟ハントに連れ込まれたりと多忙な日々を過ごしていた。
そう言えば初めての同盟ハントは、阿鼻叫喚だった。
私なりに楽しめるようにと考えて、狩場を猛獣にしたのが間違いだったのかもしれない。
猛獣の最下層に到着した途端、やる気を出した黒、大和、ティタ、源次、村雨、が大量に引くという暴走を始める。
うちのクラハンでも多いと思われるその量に、同盟の参加者たちは涙目になりながら殲滅していた。一緒に来ていた白影は「これは酷い」と嘆き、千桜は「鬼畜だわいね」と零すほど酷かった。
それでも、死者を出さなかったことは褒めて欲しい。多分黒たちなりに、こういうハントが出来るようになれよ!? という激励を込めた修行のような何かをしたかったんだろうと私は解釈している。
だが、四時間の同盟ハントを終えて戻ったところで、ロゼを始め各クランのマスターたちに捕まり説教と言う名の苦情を嫌と言うほど浴びせられたのは言うまでもない。
そんなこんながありつつも私はいつも通り、騒がしくも楽しい時間を過ごしていた気がする。
そしていよいよ今夜、同盟ラスト・レクイエムとして初めての攻城戦を迎える。
(雪継) もう直ぐ、門につく~
(ロゼ) すまん。残業で今帰った。直ぐに向かう
[[春日丸] 博士、落ち着け]
(大次郎先生) 各クランの副マス、悪いけどPTLの名前教えて
(ren) フラグベース忘れずに
[[キヨシ] 楽しみだぜ~!]
(白影) 先生、うち――
[[シュタイン] だが、白が、白が! 我が英知の結晶をっ]
これからフラグベースを置きに行くと言うのに、相変わらず騒がしいクランチャット欄を閉じる。
『悪い、遅くなった』
『いいよ』
『じゃ、いこー!』
『リアル事情ならしかたないわ~ん』
『まずは、森に置くんだよな?』
『そう。メンバー達の移動用に置く。クラメンが移動したの確認出来たら、壊して貰ってくれ』
相手に気取られないよう、昨日は前回同様締め切りギリギリに攻撃申請を出した。相手にばれている可能性もなくはないが、多分大丈夫なはずである。
現在クラメンたちには、デメテルへの移動を禁止してあり、それぞれのクランハウスで待機してもらっている。
作戦としては、まず攻城戦開始と同時に少し離れた森でフラグベースを建てる。森に建てる理由は、先バレを防ぐ事とフラグベースを建てる場所のカモフラージュだ。
そして、全員が移動したことが確認され次第、各クランでフラグベースを壊して貰う。無駄にはなるが、フラグベース自体一度に一個しか置けないし、壊されない限り新しい物が出せないので致し方ない。
壊して貰っている間に私、ロゼ、小春ちゃん、雪継で地下排水口内へ侵入して、新しいフラグベースを建てる予定になっている。
デメテルの街から城へと続く街道をトランスパレンシーを入れた状態で疾走する。ウルたちを召喚したいところではあるが、騎乗用ペットに乗るとトランスパレンシーの効果が消えてしまうので今回は全力疾走だ。城の尖塔が見える森の入口で、攻城戦開始前を待つ。
これ以上進んでしまうと街へ戻されるのでここで待つしかない。
『後二分かー。緊張する』
『雪継初めてなんだっけか?』
『そうなんだよね~。』
雪継や小春ちゃんは、殲滅の破壊者の頃に少しだけクラメンとして参加していたことがある。だが、それ以降攻城戦経験はないそうで、事あるごとにロゼや白影に、些細な質問をしているあたり今回の攻城戦は相当に緊張しているのだろう。
そんな二人に、ロゼはとにかく焦らない事と落ち着いて状況を見て判断する事を伝えている。実際問題、下手に焦り愚策とも呼べない特攻などをされれば、他のクランが迷惑を被るので間違ってはいない。
『なぁなぁ、ロゼ。フラグベース壊されたらどうしたらいいんだ?』
『そういう時は、街待機命じとけ。で、纏まって移動指示出た時に移動させたらいい』
『なるほどな~』
『とにかく、今回の指揮先生だから、先生の指揮チャだけは見逃さないようにしつこいぐらいに言っとくと言いぞ』
『うん。わかった』
『そうね~ん。うちの子達にもその事は伝えておくわね~ん』
まるで教えを乞う初心者のような状態の雪継とロゼの会話を微笑ましく思いながら、もう一方の同盟チャットに視線を移す。
先生たちの方は、順調に連合を組んでいるらしい。
それとは別に、うちの遊撃である宗之助、風牙、ミツルギさん、春日丸が他の参加クランのフラグベースが立つ予定の場所を探りつつ、城周辺の偵察を行っている。
(ren) 先生、地下にフラグベース立てたらPT解散するから拾って
(大次郎先生) わかった。ロゼたちの方も
renのタイミングに合わせてでいいか?
(白影) それでいい
(雪継) よろ
(ロゼ) おー。頼む。
(千桜) わかったわいね。
(小春ちゃん) お願いね~ん。
(松雪) 了解ですわ
(大次郎先生) あぁ、そうだ。小春ちゃんとこから
鍛冶とポーション作れる代行の人何人か
フラグベースに出してくれない?
(小春ちゃん) いいわよ~ん。選定して、置くわねん。
(大次郎先生) よろしく。宮、バリアの順番決めといて
(宮様) わかったわ。
真剣な表情で小春ちゃんが考え込んでいる。きっとクラチャで誰を派遣するのか伝えているのだろう。
その横で、何故かラジオ体操を始めた雪継。たった数秒で彼に何があったのか聞くべきだろうが、触れてはいけないと脳が警告を出す。と言う訳で、雪継の奇行はスルーしておいた。
プファーンと言うファンファーレにも似た大きな音が鳴り響く。
『始まったな』
『うん。置きに行こう』
ロゼの声に答え、トランスパレンシーと移動速度上昇のバフ、ソウルを追加して森の奥城側へ向け走り出す。マップで他のクランが居ないかを確認しながら進んで、五分程の場所で立ち止まる。
『ここに置いていこう。ここなら城からも近い』
頷き合い互いに少し距離を取り、フラグベースを置き「展開」と唱える。小さなフラグベースが大きくなりクラチャで、移動できると合図を出す。それを終え、再び四人で今度は城の北東に側に向かって走り始めた。
森を抜け、ディティクションスクロールが上がっているか遠目に確認する。
『今のところ大丈夫そうだな』
『うん。抜けてしまおう』
『はぁ、緊張する』
『ドキドキするわ~ん。初恋の子を思い出しちゃいそうよ~ん』
『ぶはっ、冗談いう余裕があるなら大丈夫そうだなw』
ワザとらしく胸に手を当て冗談を言ってのける小春ちゃんに四人で笑い合い、ゆっくりとだが確実に歩を進めた。前回同様、北東の崖を伝い北北東の排水口入口を目指す。足場の悪い崖を、下り、そして、木の根や蔦を使い登る。
前回偵察に出向いていた宗之助たちのおかげで、この排水路内にフラグベースが置ける場所がいくつかある事がわかった今回、事前に話し合い置く場所を既に決めてある。
『こんなとこあるんだな……話聞いた時は冗談かと思ったけど、マジであるとは……盲点だわ』
排水路内を見回したロゼが、自嘲気味に言ってのけた。城主クランが知らないと言うのは、結構な落ち度だと思うが口を噤んでおく。
『凄いな。こう言うところがあるんだなー』
『ここからは別々の場所に置く事になるから、気を付けろ?』
『トランスパレンシー更新しとく』
『了解』
『敵影見えたら、必ず確認しとけよ? まぁ、あいつら排水口は確認しないと思うけどな』
『わかったわ~ん』
排水口入り口から直進で奥へ進み、足を止めてマップを確認する。前回置いた場所に置く私には必要ない行為ではあるものの、三人には必要な時間だと思ったので付き合う事に。
トランスパレンシーを更新して、排水路内にあるフラグベースが置る場所へと向かった。
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