第259話 最強は城主を目指す⑬

 完全にやらかした状態な私は、重い足を無理に動かしクランハウスにトボトボ戻る。リビングに入るなり、両腕を掴まれ引き摺られるようにしてソファーに座らされた。

 余りの申し訳無さに、俯く。そんな私の前に、観た事のある言い表しようのない紫の物体が一瞬置かれた。それと同時に、顔が引き攣り、身体が硬直して嫌な汗が流れる。


「ご、ごめんなさい」


 その場にいた先生と宮ネェ以外の全員が、殊勝な態度で謝る私の様子に驚きの顔をする。


「……まぁ、一番renに負担かけてるし、最近狩りに行けてないのは解ってたから今回は仕方ないと思って許すけど、次はこれ食べて貰うからね? 覚悟しておいて?」

「うっ、はい」


 代表した先生が、頭をポンポン叩きながら紫の物体をアイテムボックスにしまう。それにホッと胸をなでおろす。

 あれは確実に宮ネェのクッキーだ。あんなもの絶対に食べたくない! 次からは絶対に遅刻しない! そう私は心に誓った。


「時間もあれだし、サクッと始めようぜ」


 場の雰囲気を戻すように白影が、会議を始めるよう促す。それに応えるように先生が「次の戦争についてなんだけど」と話し始めた。


 同盟ラスト・レクイエムとして初めての攻城戦で狙う城は、やはりデメテル城に決まった。前回の攻城戦がうちとしては不発だった事やこれまでずっとSGの持ち城だった事、一度戦場を実際に経験している事などが理由だ。


「デメテルはどこが取るんだ?」

「クランハウスもデメテルだし、SGでいいんじゃない?」

「だな」

「そうなるとアースの城は、ヘスティアか」

「ヘスティアって、かなり攻略難しくない? あそこのNPC騎士マジで痛いぞ?」

「でも現状城主はいないんだろ?」

「まー、そうだけど。あのNPC突破できる同盟がいないって状態だな」


 ヘラ、ミューズ、デメテル、ヘパイストス以外の城下街は、アップデートの度に追加された街である。その中でも最新と呼べるヘスティアの城には屈強――本気で殺しにかかってくる騎士、弓士、魔法士が配備されており城主は現状NPCが割り当てられている。


「NPCってどれ位いるの?」

「あー、城外門に100、通路とかその他に300、続きの間に200の計600だな」

「うへぇ~」


 NPCの数が六百と聞いて雪継が嫌そうな声をあげた。それをスルーした先生は、デメテル城戦に話を戻す。

 フラグベースの位置、どのあたりで戦闘になりそうかと言う予想、城を落としたらどこにどのクランを配置するかなど作戦相談と言うよりは、先生とロゼの確認事項を聞いているようだった。


 フラグベースは前回置いた地下排水口の中に、攻城戦開始に合わせてマスターが一緒に置きにいく。マスターがフラグベースを置いている間に、森の方から纏まって進軍する。そうする事で、フラグベースの場所を気取られないようにする狙いがある。


「うちが抜けて向こうもシス帝をマスターに同盟作り直してる。新しくどこか加わったつー話は聞いてないから、多分この間BFがやった王座の間での防衛だろうな」

「やっぱり、シス帝が立ったか……」

「向こうの残り人数はどれぐらいなのかしら?」

「凡そ、140ってとこか」


 現在のSGが抜けた元同盟相手たちは、フィスタルトのマスターシス帝を頭にヘルズフィットと言う同盟を再結成しているらしい。その人数は凡そで百四十人。ラスト・レクイエムの倍と言ったところだ。


 それだけの人数が居るのに、狭い王座の間で防衛……ね。


「攻城戦開始直後に、同盟相手を入れる事もできるの?」

「あぁ、守備申請してれば入れる。この間のは、城主交代で攻撃申請だったから攻撃して入るしかなかっただけだ」


 なるほど……。もし私がシス帝だったとしてどうする? 自分がマスターの新しい同盟を立ち上げたとするなら、まず間違いなくそんなしょぼい事はしないと言い切れる。


「王座の間は無い」

「renもそう思う?」

「うん。同盟立ち上げたばっかりで、そんなしょぼい事はしない」

「しょぼいって! 笑わせんな?」

「まぁでも、renの言葉にも一理あるわね~ん」

「だわいね」

「なら、どうすると思う?」


 外城門は流石に人数的に無理がある。それなら、やっぱり内城門と続きの間に配置するはず。だが、内城門は近接に向いていても、遠距離には向かない。

 遠距離を有効に活かすか……あぁ、そうか!


 考えを巡らせていた私は、ロゼが羊皮紙に書き写したデメテル城のマップを指さし自分なりの考えを話した。


「まず、攻城戦開始直後に、同盟クランを全て門内に入れる。これについては、普通の行為だと思うから説明は要らないよね?」

「あぁ、大丈夫だ」


 代表するように先生が答える。


「それで、ここからが本題、内城門の内側に近接を配備する。多分ここに盾が少ない。と言うか居ない可能性もある。で、続きの間の上に、魔法職と弓職を配置する」

「何で内城門のとこに盾がいないんだ?」

「確かに続きの間のテラス側に遠距離置くのは十分ありそうだな」

「盾が居ない可能性については、個々から説明する」

「そうね。私でもあんな通路みたいなとこに遠距離は置かないわね~」

「盾を置かない理由はおいといて、続き聞いて?」


 皆を見回し、頷いたのを確認して再びマップへと視線を戻す。そして、王座の間と続きの間のつなぎ目に指をさした。


「私がシス帝なら、ここ王座の間と続きの間の王座側に盾を配置する。なんでかってさっき白影が聞いたけど、王座の間って絶対に敵対を入れたくない場所でしょ?」

「あぁ」

「それってさ、まぁ城を落とされる事もあるけど、それ以外にも入れたくない理由があるよね?」

「死に戻りのクラメンたちがいるか! あぁ、そういう事か!」


 理解してくれたらしい白影が叫び、机を叩いて立ち上がる。それに構わず、私は話した。

 王座の間と続きの間の間に盾を多く配置する理由を――。


「なる。王座の間に盾を多く配置するのは、敵対にってだけじゃなくて、死に戻り組が戻って合流するまでの時間稼ぎも含まれるわけか!」

「私ならそうする。ただ、これがそのまま採用されてるとは考えられないけど」

「確かに、全てが一緒ってわけじゃないだろうけど、なんか納得した」


 ヒガキさん特製のコーヒーを一口飲んで、ほっと一息ついた私は先生へ視線を向けた。


「まぁ、相手の動向はrenの意見を参考にして動くとして、内城門のどこを破るかなんだけど――」

「南西じゃダメなのか?」

「全部よね」


 私の考えを読んだらしい宮ネェが全部と言いながら私を見ながらウィンクする。そんな宮ネェの横で、先生も何度もうなずいていた。流石付き合いが長い二人だけに、良く分かってらっしゃる。なんて感心していたら、何かを諦めた顔でロゼが「はぁ、やるしかねーか」と頭をガシガシ掻く。

 他の皆も口々に仕方ないとか言ってる所を見る限り、私の思考はバレバレだったらしい……何故だ?


「じゃぁ、作戦としては内城門は全部あける。攻める扉は――」


 そうして話し合いは続き、それから約一時間後に大まかな事が決まり終了を迎えた。

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