第241話 第二回、帰れまテンinオリンポス・幻想峡&SG教育④

 フォルタリアと言うクソ……失礼、酷いクランに所属していたために、装備もゼルも無いと言う皇さんに私が出来る事を考える。それとは別件で、フォルタリアについて雪継か千桜にあとで問い合わせをしておこうと頭の片隅にメモる。


 先んじて必須になる物と言えば装備だろう。流石に二次職のローブと杖では、寄生と言われかねない。

 ロゼや白影は何も言わないだろう。言っているなら絞めればいいだけだ。が、二人以外のその他のクラメンや同盟のメンバー間で皇さんが肩身の狭い思いをする事は予想できる。


 私のお古を回すのもいいかもしれないが、そこまで彼と親しい訳でも信頼関係があるわけでもない。それに、貸したら貸したで、経験値スクロールのような状況――自分たちのも的な考え――になる可能性もあるので、そこを考慮してこれに関しては、ここで狩りを頑張って貰うしかない。


 次に、狩りの方法だ。範囲デバフ攻撃が得意なバードが一匹ずつと言うのはいただけない。なので、まずは範囲のやり方を見せて教えつつ不安を取り除いていこうと思う。

 MP管理自体は上手いとまでは言えないが出来ている。共に行動する間にそこらへんは都度都度伝えていこう。


「皇さん。ひとまず、私がやるとおりにやってみて」

「はい」


 根が素直な性分なのか私が言う事を素直に聞き、頷く彼はやはり犬っぽい。


 彼の使う二次職の魔法は、フレイムサークル、ファイアーウォール、アースニードル、アースクエイクと言ったものだろう。あくまで予想なので使えないものもあるかもしれないが、そこは臨機応変にと伝える。


 まずは五~十匹ほど固まっている場所に走り、ファイアーアローでタゲを引く。


「魔法が当たったらモブの移動をまたないで、すぐ移動して次の魔法を当てる。移動が少なくなるようになるべく固まってる所を狙ってみるといい」

「はい」


 三匹ほど当てて、少し離れた位置にいる四匹目に向かう。


「移動中は出来るだけ真っすぐ走らないで、ジグザグに。モブに捕まらないようにする事」

「はい」


 そして、四匹、五匹、六匹と周囲に居るモブにファイアーアローを打ち込み、ある程度タゲが引けたら、一纏めにするように走る。


「纏める位置をこの時点で決める。その位置の決め方は、設置型の魔法を置く時間が稼げる位置で、ただしモブと離れすぎるとタゲが切れるから注意する事」

「はい」


 大体にして五秒~十秒ぐらいでファイアーウォールとアースニードルの設置が終わる。一つに付き五秒だと考えればいい。設置する魔法の数に合わせ時間を稼げる位置で足をとめ詠唱し設置する。そして、そこから二メートルほど距離を取り立ち止まる。


「設置場所から二メートル開ければ、モブのダメージは受けない。ここで離れられないとダメージ貰うから焦らず行動する事」

「はい」


 そして、モブが漸く設置場所に来ると同時に設置型のファイアーウォールを波動する。発動後すぐに、アースクエイクを詠唱しモブにダメージを与えつつアースニードルを発動すればモブがバタバタと倒れ黄色い粒子になって消えて行く。


「設置型、発動型、設置型、発動型って言う感じに交互にダメージを与えればモブは倒せるはずだから焦らず、しっかりと魔法を叩きこむといい」

「なるほどです。交互にするのはどうしてですか?」

「交互にする必要はないかもしれないけど、発動型はディレイ時間があるのが多いでしょう? その待ち時間がもったいないと思うから、私は出来る限り交互に発動してる」

「そうなんですね」

「一応追走するし、危なかったらヒールはするからやってみて」

「はい。頑張ります」


 不安そうな顔をしていた皇さんが、追走すると言う言葉を聞いて強く頷いた。そして、走り出す彼の後について私も走る。一度しかして見せていないし、最初から出来るとは思っていない。なのでもう少し気楽にしてくれてもいいと思うのだが、それを伝えて彼のやる気を削ぐのも違う気がする。

 

 一度目の引きは少し緊張しながらも上手く出来たように思う。数は五匹と少なくはあったが、無謀に引き連れて来るうちのクラメンよりは余程いい。

 二度目、三度目は数を増やすように助言した。四度目の引きで、突如湧いたモブに挟まれ、危ない部分もあったが、無事救出できたしその後の処理も問題なくやっていた。

 五度目、六度目と引く回数が増えるにつれ、彼も大分慣れて来たのか追走する必要がなくなった。


「後はMP管理なんだけど、今のMPだと本来の七割ぐらいしかないだろうから、そこはおいおい、装備が揃った時にでもまた聞きに来て」

「はい。ありがとうございます!」

「じゃぁ、頑張って」


 これ以上は今は教える事が無いと判断した私は再び引きに行く皇さんを見送る。自信もモテたようだし、無茶はしないタイプなのだろうから一人で狩りをしても問題ないだろう。


 漸く指導的何かから解放されたところで、自分の狩りに専念するため狩場を探す。

 周囲の至る所で、クラメンとSGの面々が狩りをしている。そこに私が入る余地はなさそうだ。仕方なくモブが少ないだろう東北方面へ目指し進んでいるとティタと柊さん、源次が三人で競うように狩りをしていた。


『お~ren。バフ頂戴バフ』

『やっほ~』

『お疲れ様です!』

「どうも……」

『ちょ、お前まだ、人見知りしてんの?』

「バフいらないの?」


 口さがない源次を脅しともとれる一言で黙らせ、無言でバフを入れてその場を後にする。東北は既にティタ達が使っているため、北西方向へ進んだ。

 見えてきた狩場に、ほっと息を吐きだしプレイヤーが居ないか確認すれば、誰もいない上にモブも少なかった。まぁ、それでも皆が居る場所よりは多いので良しとする。


 PTチャットは相変わらず指導するのものと普通の会話が入り乱れカオス気味だが、声はここまで届かないので流し読みで対処できるだろう。


 早速自身に個別のバフを入れ、狩りを始める。バードである皇さんには範囲を推奨したが、私自身の場合杖装備+ブレスオブアローで一撃なので、単体でも問題はない。

 走りながらブレスオブアローでモブを殲滅しつつモブの湧きを確認する。そうする事で、余り離れず、クルクルと回るメリーゴーランドよろしく狩りをした。


 一時間、二時間と狩りを続け、返事をしない私を心配したらしい宗之助の呼びかけに気付けば夕日が色濃く大地を染めていた。


「ren。そろそろ休憩入れるでござるよ」

「もう、そんな時間?」

「renが最後でござる。拙者が見てるから、寝袋に入るといいでござる」

「そうなんだ。わかった」


 どうやら狩りに集中するあまり、休息の時間も取らずにいたらしい。他の面々は既に休憩を終えているらしく私が最後だったようだ。

 宗之助の言葉に甘え、モブの湧かない位置に移動して宗之助にバフを入れる。それから寝袋を取り出した。

 正直この寝袋の寝心地は最悪なのだが、現実に戻るためのものだと思えば我慢できないこともない。

いそいそと寝袋に入り込み、ログアウトボタンを押す。


「じゃぁ、行って来る」

「いってらでござる」


 現実世界に戻り、トイレと冷凍食品のピザをレンチンして簡単に済ませ時計を見れば、残り十分。少し早いが戻ってもう一度落ちる事を決意して、再びゲームに戻り宗之助にお風呂行って来るとだけ言い残し、度々の現実へ。シャワーを済ませ、一時間の休憩を終えた。


「ありがとう」

「いいでござるよ」


 さて、狩りだと意気込んでバフを入れていた最中に、クラチャでクラン庫の経験値スクロールが無くなったと言う知らせが入る。掲げた杖と肩を同時にがっくりと落とした私はその後、クラメンのための経験値スクロール作りに精を出した。


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