第223話 最強はイベントに励む③

 雪継と千桜を強制的に呼び出した白は、やはり俺様なのかもしれない。なんて現実逃避をしてみたもののモブを倒す度、凄いキラキラした眼で見られている気がする。

 非常にやり難い! このまま続くようであれば雪継に密談を送ろうと決意しつつ最後のモブを倒し終えた。 


『お~マジでPOT使うと楽だわいねw』

『だなw』


 POTの存在を知らなかったらしい千桜がPOTの素晴らしさについて語れば、来たばかりの黒が同意する。


『つか、ren以外範囲魔法使えるやついなくね?w』

『イツモノコト』


 雪継の指摘に、白が視線を逸らし片言で答える。


『ふぉえ~。物凄い量引くんですね……しかもそれを、一人で処理ですかー。すごいですねー』


 興奮するむー姫の杖は飾りのようだ。


『雪、黒の追走して引いて来い。後、千桜ゲッターサークルもう少しこっちで!』

『すげぇ~!』

『マスター顔色悪いっすよ?』

 

 白の指示で走って行った黒の後を追う雪継。ゲッターサークルスクの位置を訂正される千桜は、頷きながら『了解だわいね』と言った。

 すげぇ~を連呼する獅子王さんは、黒と同じ盾じゃないの? 引きにいかなくていいのですか? ミツルギさん、私の顔色は気にしないで。


 顔色が悪い理由は、ただモブを倒しただけで凄い凄いと言われる事。雪継と千桜はもう少しクラメンにドラマスが何たるかを教えるべきだと思う。ドラマスはバッファーでしかない。本職のキヨシなんて魔法一撃でほとんどの倒してたよ。

 悶々と恥ずかしさを堪えていたせいで顔色が悪くなっていただけなのだ。


『10』

『k』

『あぁ、このチャット懐かしい~~~』


 黒の戻るコールに答えていたら、モブを引きながら走ってくる雪継が遥か昔のいい思い出を語るかのような声音を出す。不思議そうに千桜を見るむー姫と獅子王。千桜の表情からどうやらクランチャットの方で説明中のようだった。


 黒と雪継がジグザグに走りタイミングを合わせ戻る。数拍遅れて迫ってくるジュエルフェアリーの団体へ黒がレンジヘイトを飛ばす。

 ミツルギさん達がゲッターサークルスクを使い檻のエフェクトが表示され、散らばっていたジュエルフェアリーが不自然にぐいっと引き寄せられる。

 そこへドラゴンオブブレスを発射。白金に光るレーザーが掲げた杖から前方に扇型に広がった。ここで倒れるモブは居ない為、再びドラゴンブレスを発射する。パタパタと倒れるジュエルフェアリーが黄色い粒子に変わる。

 そして、遅れてきたモブへ再び、黒のレンジヘイト――以下同文。


『今回はかなり楽なイベントだなw』

『黒、ちゃんと経験値スク使わないと勿体ない』

『うおー、忘れてた! さんきゅren』

『て、今使っちゃ勿体なくね?w』

『おせーよ。白w』


 作業感半端ない狩りだが、経験値がいつも以上に溜まる分無駄口を叩き合いながら気長にやる。黒と雪継がジェエルフェアリーを引きに行く。


『ren達は、経験値スク買えてるのか~、いいなぁ』

『羨ましい事この上ないのだわいね』


 走って引きながら器用に話す雪継と棒立ち状態でそれを見守る千桜が、さっきの会話を掘り下げる。うちがスクの卸をやっていると言えない……言えば確実に融通してと言ってくるだろう。そうなると宮ネェとか先生とかに怒られそう。どうしよう……返す言葉が見つからない。

 必死に考えた挙句、白の方を見る。ばっちりとかち合う視線……丸投げです。


『あーまぁ、うちはほらrenが居るからなw』


[[ミツルギ] 白さんwwww]

[[ren] 白、何言ってるのかな?]

『あー。renの買ったのか~w』

『そうそう』


 白の言葉にギョッとしてクラチャの方で白に問い詰めた。が、その返事を聞くまでもなく、雪継は勝手に誤解する。そんな彼にいい笑顔を向けた白は堂々と彼を騙しきったのである。

 雪継よ、素直な性格と言えばいいのか、天然と言えばいいのかどっちなんだ……。


 彼らのやり取りが終わるタイミングで黒が『10』とカウントを入れる。そこで会話が途切れそれぞれが己の仕事をこなす時間になる。

 それからしばらくしてアースの面々を入れた狩りは、ゲッターサークルスクの在庫がなくなったことで終わりを迎えた――。



*******



――雪継視点


 いつもの如く、こちらの都合お構いなしで白から密談が届いた。内容はイベント狩場に行くぞと言うものだ。そこに、拒否権は一切与えて貰えない。それでも正直に言えば、今回の誘いは俺からしてもありがたいものだった。

 理由としては、俺がログインするよりも前にログインしていたクラメン達が既にフルPTでイベントに行っていた事。残ったメンバーがフルPTには到底足りない人数の四人しかいなかった事だ。


 すぐさま俺は快諾する。その上で白にBFの方の参加メンバーを聞けば、黒、白、ren、ミツルギと言う短剣職の四人だと言う。これはうちの狩り効率を上げるための訓練にも使える! そう思った俺は、名指しで指名された俺と千桜以外の二人を千桜と相談して選定する。

 

 千桜の意見を取り入れつつ、回復が居ないと言う事でうちのメインヒーラーであるむー姫を入れる。それから、黒のようになってほしいと言う期待を込めて、獅子王を選んだ。


[[獅子王] うおー、ここのモブかてーw]

[[千桜] むー姫と獅子王、二人と入れ替わるだわいね]

[[さつきちゃん] 魔法あんまり効かないねー]

[[プルーフ] これならエントの方がよかったかも?]

[[むー姫] わかったよぅ~。一回戻ろう~]

[[獅子王] 了解]

[[海苔タマ] お、じゃぁ入口いくね~]

[[水無月] 分配済ませてから解散しよう!]

[[無慈悲] あードロップどうする?]

[[燵魅] わりーなw]


 理由は告げないまま千桜が二人を呼び出す。ren達と合流する前に、注意点をPT会話で伝える必要がある為、俺も急いで準備を済ませるとイベント入口へ向かった。


 未だ分配中らしいクラメン達の様子を見ながら、千桜と狩りに連れていくうえで注意する事についてPT会話を繰り広げる。


 一つ目はやはり、renに関する事だろう。彼女――と言っていいのか定かではないがとりあえず彼女と言う事にする。――は、極度の人見知りだ。それ故、他者が話しかけると容赦なくスルースキルを発揮する事がある。彼女に悪意があるわけではないが伝えておかなければ、余計な誤解や軋轢を生む可能性があるので伝える事になった。


 二つ目は狩りの仕方についての説明だ。多分だが、今回連れていくむー姫と獅子王に白達は期待していないはず。実際、即戦力になるかどうかの前に、PTを組んだことがないため当然と言えば当然なのだ。だからこそ、余計な動きをしないよう前もって伝えておく。


 三つ目についてはまぁ、renは要らないと言うだろうがバフに必要となる魔石の代金についてだ。狩り時間がどれぐらいになるかは分からないが、ドラマスのバフを一つ使うごとに魔石が減る。魔石代金は安くはない。そのため彼女一人が持ってしまうと一人だけ赤字になってしまう。これがクラメン時代はおんぶにだっこだった訳だが、今回はそうも言ってられないのでその事も伝える方向で話がついた。


『ほかに何かある?』

『他は都度都度クラチャで言うだわいねw』

『そうだな。つか、俺なんか、緊張してるんだけどw』

『私もだわいねw』


 分配が終わり、むー姫と獅子王が側に来ると早速、これから行く狩りについての誰と行くのかどんな狩りをするのかについて話す。

 真剣な面持ちで俺と千桜の話に耳を傾ける二人を前に、視線を表示された時計に向ける。白達との待ち合わせまで残り五分、なんとしても合流する前に説明を終えば! 逸る気持ちを抑え、その後も二人へ説明を続けた――。

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