第216話 最強はアップデートを楽しむ㊳

 博士から奪ったPOTを白がどうするのかワクワクしながら待つ間に、死者の数は三十人を超えた。人数が多いとそれだけボス部屋に人が散らばる為かヒヒの動きも激しくなるようだ。


[[白聖] 先生、頼みがあるんだけど]

[[黒龍] タイミング合わせ難い!]

[[大次郎先生] どうした?]

[[シュタイン] 吾輩のPOT……が]

[[ティタ] renデバフダメなの?]

『雑魚湧くよ。大和、白影準備よろ』

[[宮様] 博士、元気出しなさい。また出来るわよ。ね?]

[[白聖] あぁ、雑魚湧くのか、ならいいや。勝手にやる]

[[ren] 無理。イリュージョン使っていい?]

[[ヒガキ] POTとか大丈夫ですか? 自分まだ余裕あります]

『了解』

[[さゆたん] 何やる気でしゅか?]

[[大次郎先生] ちょっと白、せめて何やるかぐらい説明して?]

『はーい』

[[聖劉] 内緒]


 頼みがあると切り出しておいて、雑魚が沸くと分かった瞬間一人で納得し頷く白に先生はせめて説明だけはして欲しいとお願いしていたが却下されていた。

 ニヤニヤと笑う白と聖劉の様子に、突拍子もないことをやるのだけは確定しているように思う。

 私のイリュージョンに関してはスルーされた模様。


 時間になると同時に暴れまわるボスの周囲に、大量の雑魚が沸く。対応するのは白影と大和の二人だ。もう何度目になるか分からない沸いた雑魚に起用にヘイトを入れ、周囲のATK達が狙いやすいよう中央に位置取る。


 その間を縫って、黒が必死にヒヒを追う。

 ボス部屋広さから考えていい加減捕まえてもよさそうなものだが、やはり移動速度と攻撃速度が上がっているせいか捕まえきれないようだ。


 ボスの弱点に白が、狙いを定めフォースオブショット――三次職弓専用スキル。防御力を捨て、攻撃力を最大二.五倍まで引き上げる。再使用時間は三秒に一度、三回使用するごとに二十秒硬直するデバフ付き――を三連続で打ち込んだ。

 それから二十秒白の動きは止まり、また三連続で打ち込んではフリーズ状態を繰り返す。そんな白の足元についに、赤い魔法陣が浮かび上がったのは計十二回目の矢を放った時だった。

 被弾したボスは、狙いを定めていたATKをなぶり殺しにすると次のターゲットを白へと定めた。

 一気に跳躍するヒヒは新幹線並みの速さで白の元へたどり着いた。

 

[[宮様] 白!]

[[聖劉] 後は任せて!]


 宮ネェが白の名前を呼ぶ。が白は、フォースオブショットのデバフを食らっていた為完全にフリーズしている。振り上げられるヒヒの両腕――と同時に、そのままヒヒの身体に雷を纏った楔が撃ち込まれヒヒの動きが完全に停止した。硬直が解けその場から直ぐ様バックステップで後ろに飛びヒヒの攻撃範囲から離れた白は、聖劉とハイタッチを交わす。


 そんな二人の姿に一瞬何が起こったのか分からなかった、見ていたはずの光景に脳が処理できず自分の眼を疑った。

 脳を整理するため見たものを思い返す。


 赤い魔法陣が浮かび上がり、ヒヒが白の元へ飛んだ。その僅かな間に白は、三本目――十二本目の矢を弓に番える間際に、何かを高く放り投げた。

 多分その何かとは、博士のPOTだったのだろう。

 そうして、白が十二本目を放ちヒヒが到達する。両腕を振り上げたヒヒから真上五センチ程の所に落ちてきたPOTを白から距離を取り引き絞った弓で待ち構えていた聖劉が、矢を放ち打ち砕くことでボスにPOTの中身をぶちまけた。


 なるほど、本当にこの二人でなければできない事だと私は痛感する。

 元々白の弓は飛距離優先で攻撃威力は低い。フォースオブショットを使い威力を上げてヒヒのタゲを奪う必要があった。先生に頼もうとしたのは、タゲを執る為の攻撃停止だったのではないかと推察する。

 これが聖劉の場合、威力はあるが飛距離が足りない為、攻撃回数を重ねるごとに移動に時間がかかってしまう。だからこそ、白が囮になったのだと分かる。


 そして、スキルを使い固まった白の代わりにPOTを割る誰かが必要になる。その誰かが飛距離はでないが威力は高い弓を持つ聖劉だ。

 聖劉の弓は、アーチェリーのそれによく似ている為、岩すらも砕くほど威力が高いと聞いている。そんな弓ならPOTを打ち砕くのに最適だったのだろう。

 どちらが欠けても成功しなかった作戦だ。本当にこの二人は凄い。


 二人に気を取られている間に、遠距離組の雑魚の殲滅が終わる。残すは近接組の雑魚の殲滅だ。折角身内が格好いい所を見せたのだ、私もイリュージョン召喚したい!


[[村雨] 白、聖劉、ないすぅ~]

[[黒龍] 次も頼む]

[[大次郎先生] 良くやった!]

『雑魚終わったから、うち休憩にいくわよ~ん?』

[[ren] 宮ネェ、バリア生きてるよね?]

[[白聖] POTの予備くれ、黒]

[[†元親†] ふー。大和お疲れ]

[[宮様] えぇ、生きてるけど……何するの?]

[[黒龍] おうw 床置くから拾ってくれ]

『小春ちゃん、どうぞ』

[[大和] 雑魚やっと終わった~]

[[ren] 内緒? 合図したら張ってね?]

[[白聖] k]

[[宮様] ……わ、わかったわ]

 

 黒たちのPOTの受け渡しが上手くいった事を確認して、宮ネェの言質を取る。狙うならば今がいいだろうと言う判断の元、氷にするか水にするかで悩み。私の独断と偏見でゴリ押しできそうな氷属性のプレマフォロストを召喚する。


『宮ネェ、バリア!』

「イリュージョン プレマフォロスト」


 即座に宮ネェのバリアが展開され、その場にいる連合の全員に淡い七色の透明で立体的な四角形の膜が張られる。

 幻影召喚を発動すると同時に、ボス部屋全体の気温が下がる。天井には冬の空に見られるオーロラが現れ、キラキラと舞うように青とも白とも言えない光る氷の結晶が降り注ぎ始めた。降り積もった結晶は地に触れ溶け、パキ、キピッと音を出しながら氷へ変化し中国の龍に似た細長いドラゴンを形作って行く。

 

[[キヨシ] おぉぉ! シェン〇ンだ!]

[[†元親†]  さあ願いをいえ どんな願いもひとつだけ叶えてやろう!]

[[鉄男] ズル〇ルボールの方しか思い出せない!]

[[さゆたん] 馬鹿しかいないでしゅw]

[[シュタイン] カッコいいのである!]

[[ミツルギ] またっすか? また、いいとこ総取りっすか? マスター]


 ズ〇ズルボールって何? 鉄男の言葉が理解できない。いいとこ横取りって、流石にこのHPじゃ殲滅は無理だと思うよ、ミツルギさん。

 興奮する博士の鼻息が凄い事になっているのは見なかったことにして、視線をプレマフォロストへ移動させた。

 

「フィルルルルルルル」


 青白く透明度の高い氷で出来た長い胴体でとぐろを巻くプレマフォロストは、銀色の瞳を眇めヒヒを見る。そして、巨大な口を大きく開き真っ白なブレスを吐き出した。

 プレマフォロストのブレスを直に食らったヒヒは、残り五割のHPを三割まで減らしノックダウン状態だ。攻撃を終えたプレマフォロストが鼻先を私へ近づけ、一度コクンと頷くとその場で巨大な体が一気に砕け召喚前の状態へ戻る。

 

『声は可愛いのに……ブレスは凶悪なのね~ん』

 実に楽しそうな小春ちゃん。


『はい。さくさく今のうちにダメージ与えてね』

 召喚を無かったことにしたそうな先生は通常営業。


『呼ぶなら前もって言え! ビビるだろうが!』

 ロゼが切れ口調なのは珍しい。


『はぁ。俺死んだと思った。renにこのスキル与えた運営を恨むわ……』

 さすがヘタレの生ジル君こと、雪継。


『ちゃんと、バリア入れてもらった!』

 反論する私は間違ってない!


『……せめて、前もって知らせて欲しいのだわいね』

 千桜は、明らかに肩の力を抜きましたと言わんばかりに嘆息する。


『ウハハハハハ。ren、最高!』

 豪快に笑い飛ばす白影もいつも通りの様子だ。

 

 それまで呆然と見ていた参加者達は、何かに小突かれたかのようにボスを囲み攻撃を開始していた。


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