第210話 最強はアップデートを楽しむ㉜

 ボスの元へ黒が到着して既に数分が経過している。待てども待てども黒が、POTを投げる気配がない。

 何故……あぁ、博士のだしPOTに信用がないのだろう。だが、今回は違う。ちゃんと鑑定もしたし、余計な効果はついていなかった。


『黒、投げる、ok?』

『わかってる。わかてるけど……。つーかなんで片言!』

『ウケェ~ル』

『ワァ~ラウ』

『クサ、ハエルゥ~』

『なんでお前らまで、変なニュアンスの外国人風なんだよw』


 ボスにヘイトを入れながらツッコミを入れられる黒は流石だと思う。ちなみに私が片言になった理由は、バフをしていたからである。そんな私の片言に、鉄男、キヨシ、チカがノリノリで乗ってくる。


『黒投げて、今回は大丈夫なんだろ? ren』


 投げてと言いながら確認をする先生の問いかけに、問題ないと頷く。

 それを見ていた黒がしつこいほどに「本当に大丈夫なんだな?」と確認してくる。今までの事を考えれば、黒の不安な気持ちも態度も理解できるが、いい加減投げて欲しい。

 皆の視線を受けた黒が、大きく息を吐き出し意を決したようにボスに向かいPOTを投げた。


 クルクルと回転しながら博士のPOTがボスに当たり、瓶が割れ砕ける。黄色い液体がボスに付着し一気に広がった。それからはあっという間だった。

 ボスを全体的に包み込んだ液体が、ボスの首、腕、腰、足に巻き付き光り輝いた。光は次第に地中に杭を打った雷の鎖へと変化する。ボスが動くたびバチッと静電気のような音が鳴り、ボスの動きを止めた。


『うわー。これ人に使ったらダメな奴だよね?』

『これはヤヴァイでしゅ』

『対象があたしじゃなくてよかったわ~ん♪』

『全員攻撃、対象蛇! 炎には注意しながらでよろ!』

『なぁ、博士このPOTさトーナメントでも使えるの?』

『もちのろんである』


 引き攣った笑いを浮かべたベルゼ、さゆたん、小春ちゃんの順で感想を述べる。

 トーナメント戦と言うワードで確認したロゼが、ニヤっとした黒い笑顔で博士の答えに頷いたのは見なかったことにするべきだろうか?


 様子を伺っていた先生が指示を飛ばし、周囲が慌ただしく動き出す。

 雷のせいで動けないボスは、黒、大和を対象に今は攻撃を仕掛けている。近接ATK達が近づけば、またランタゲで死者は出るだろうが、こんな簡単にボスの動きを抑えらている事に少しだけ博士を見直した。

 そんな私と同じ感覚になったらしいクラメン達がクラチャで博士を褒める。褒められた博士は、嬉しそうに胸を張り仁王立ちで天を指し「我のPOTほど優秀なものはないのである」とドヤっていた。


[[村雨] さすが博士だ!]

[[黒龍] 多分だが、ランタゲ中はタゲ相手が死なない限りタゲ変更ないぞ]

[[宗之助] 紙装甲には辛いでござる]

[[ren] 博士、動きとめるってなってるけどスキルも封じる?]

[[大次郎先生] 黒、それ本当?]

[[宮様] チカ、大和にタゲ行く可能性あるから今はMP温存して]

[[ティタ] タゲいつ黒から、変更するか判らないからみんな注意ね]

[[シュタイン] 初めて使ったから分からないのである]

[[黒龍] 確信ってわけじゃないが、見てる限りそうだった]

[[†元親†] k]

[[キヨシ] 博士……作ったPOTは一度

      自分一人の時に効果調べろよぅぅぅ!]


 ティタのターゲットマーカーが蛇を指し示し、クラメン達と参加者達の攻撃が蛇へと集中する。

 黒の言葉が本当であれば、黒、大和、白影の三人が死なない限りボスのタゲは持てることになる。だが、ランタゲ中のボスのスキルでタゲを持てる三人が死ぬ可能性について不安がぬぐえない。

 そこで私は博士のPOTで防げるのか疑問を持ち問い合わせた。が、博士も初使用だったらしく防げるかどうかは判らないそうだ。


 作るだけ作って使わないとか……本当に何のために作ったの……? 使ってみないと分かんないでしょうに。


『回復薬はMP回復優先で、他は総攻撃、MP三割切ったプレイヤーはMP回復最優先』


 先生の判断は正しい。ここで黒の言葉だけを信じることはできない。いつタゲが飛ぶかわからない以上、MPは温存させるべきだ。

 タゲを持つ黒のHPを管理する宮ネェのMPが徐々に減り始めている。五割を切った段階でチカと宮ネェを入れ替えさせるべくクラチャを開く。


[[ren] 宮ネェ、5割切ったらチカと交代して]

[[風牙] この雷いいな。殴りやすい]

[[大和] 鉄男、背面行ける?]

[[宮様] k]

[[†元親†] うえぇ、俺が黒のヒール持つの?]

[[鉄男] ん~。無理!]

[[春日丸] チカ、自信なさげな声だすなよ~w]

『レーザー来るぞ!』

『大和、白影、雑魚処理用意! それぞれ雑魚処理優先で!』


 指示を出し終えたところで、ロゼと先生が声高に叫ぶ。

 ロゼの叫びが終わる直前、鶏が再びレーザーを眼から発射する。威力は先ほどの倍、時間もかなりの時間継続するようだ。もしかすると発射回数が増えるたびに威力と時間が増すタイプに変更されているようだ。


 レーザーに少し遅れて六十匹ほどの雑魚が沸いた。さっきと同じく白影、大和がボスから離れ雑魚のタゲ執っていく。複数回レンジヘイトのエフェクトが上がり雑魚が二人を目指しノロノロと移動を始めるのに合わせ、周囲のプレイヤー達が次々と攻撃を仕掛け殲滅を始めた。


『近接密集しすぎないで、レーザー避けて!』

『雑魚に気取られすぎんな!』

『遠距離組もレーザーには注意して!』


 先生、ロゼ、雪継のPTチャットもむなしく、団子状態で雑魚処理をしていた近接組がレーザーの直撃を食らう。そこかしこで上がる回復のエフェクトが激しさを増す。死者はいるもののその数は少ない。

 蛇のHPがもうミリも残っていない。どうにかこうにかこのままスキルゴリ押で削り切れるだろう。

 

[[黒龍] 次、鶏でいいんだよな?]

[[大次郎先生] うん。先にヘイト入れ始めておいて]

[[黒龍] 了解]

『大和、白影、次鶏な』

『りょーかい』

『リョ』


 短いやり取りで次のタゲを確認した黒が、二人にもPTチャットでタゲを伝えた後、すぐに鶏にヘイトを飛ばし始めた。


 アップデート前後では、ボスの仕様、雑魚の湧きなど様々な部分が変更されている。そのため今の私の知識が役立つのかは分からないが、思い出せる分だけ思い出す。

 鶏と私達は呼んでいるが、その実コカトリスだろう。顔のつくりや鶏冠のつくりは同じで色が多少違うだけ。

 通常のコカトリスの攻撃は、嘴をつかった頭突きとレーザー、風属性のトルネードに自分の毒羽を混ぜて攻撃してくるぐらいで、他は特にないと記憶している。

 そして、キマイラについたコカトリスの攻撃――以前の討伐では、口からマグマを吐き出し、レーザーと麻痺毒の羽の範囲攻撃を仕掛けてきていた。


 蛇から上がる断末魔の叫び声に、思考を停止させそちらを見るみれば黒ずんだ蛇は、既に動かなくなりダラリとサルの尻尾のように垂れていた。


『次、鶏! レーザーと毒羽注意。全員装備の耐久と消耗品確認して、少ないものがあったら各クラン毎に1PT ずつ帰還させて補充してくれ』


 蛇が終わったと同時に先生が指示を出し、ティタのターゲットマーカーが鶏の頭についた。


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